関西再生への選択−サステイナブル社会と自治の展望

関西再生への選択−サステイナブル社会と自治の展望 (社)大阪自治体問題研究所、関西地域問題研究会 編著
発行 自治体研究社
2003年12月10日 初版 第1刷発行
頒価 1900円+税
ISBN 4-88037-399-0

第1章 関西近未来
第2章 関西の地域開発・都市開発の歴史から学ぶこと
第3章 サステイナブル関西への課題
第4章 関西経済の課題と展望
第5章 サステイナブル関西への行財政システム
第6章 市民自治で切り開くサステイナブル関西

*主な執筆者
 遠藤宏一・大阪市立大学教授
 遠州尋美・大阪経済大学教授
 重森曉・大阪経済大学教授
 樫原正澄・関西大学教授
 中山徹・大阪府立大学教授
 北野正一・神戸商科大学教授
 鎌倉健・大阪樟蔭女子大学助教授ほか
 


 出版発表の記者会見開く

『おおさかの住民と自治』No.301、2004.1 より転載

 2003年12月5日(金)午前10時30分、府政記者クラブにおいて、大阪自治体問題研究所・関西地域問題研究会の研究成果『関西再生への選択』の発表を行いました。関西地域問題研究会事務局長の遠州尋美・大阪経済大学教授が以下のような内容で報告しました。マスコミ各社6社が参加しました。本号ではその発表の要旨を掲載します。

 (社)大阪自治体問題研究所と関西地域問題研究会は、3年間の研究成果として『関西再生への選択 サステイナブル社会と自治の展望』(自治体研究社)を出版した。

出版までの経過

 この出版事業は(社)大阪自治体問題研究所の呼びかけのもとに、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀、各地域の自治体問題研究所が合同で取り組んだ初めての広域連携プロジェクトである。(社)大阪自治体問題研究所は、以前から、大阪市内に勤務もしくは在住する研究者の協力を得て、大阪大都市圏における都市問題とその解決に向けた研究活動を組織し、その成果をふまえた出版を行ってきた。『躍進大阪』(79年)、『大都市新時代』(87年)、『世界都市とリバブル都市』(91年、いずれも自治体研究社)を含むその成果物は、その都度大きな反響を呼び、大阪地域の地方政治の発展に影響力を発揮したが、今回の出版は、その経験を引き継ぎながら、関西全体を視野に入れた大規模な共同研究へと発展させたものである。

 私たちのプロジェクトは、関西経済連合会(関経連)、大阪府、日本経済新聞社など、関西地域の政治経済に影響を与える主要なアクターが、関西経済の復活と再生をめざす提言や計画を相次いで発表したこと、また、それらと前後して発足した小泉政権が、圧倒的な支持率を背景として「構造改革」を強力に推進しようとしてきたことがきっかけとなっている。前者は、関西経済の絶対的「衰退」への強い危機感を背景に、関西の「強み」「独自性」に依拠した再生を主張する注目すべき特徴を持っているが、それらが思い描く将来像は、関西経済の困難の根本的原因である歪んだグローバル化・サービス経済化を無批判に前提として、それに適合する高付加価値産業構造への転換を説くものでしかない。また、後者は不況をいっそう深刻化させ、セーフティネットを弱体化し、地方自治を形骸化させる危険を持つ。 私たちはそれらとは逆に、関西経済の困難をもたらしている根本的原因に踏み込んでその転換を促すとともに、基礎自治体を重視して地方自治のいっそうの強化を図ることが、関西再生への唯一の道であることを示す必要を強く感じたのである。

 幸運にも大阪府知事選が実施される直前に私たちの成果を出版することができた。現職である太田府知事はもとより、すべての候補者が真剣に検討され、大阪府政の民主的発展と再生への取り組みに役立ててくださることを期待したい。

本書の構成

 本書は全6章からなっている。
 「第1章 関西近未来」においては、関経連や大阪府などによる再生シナリオに従った場合、どのような未来が待ち受けているのかを検討している。人口減少と高齢化の進展の中でいっそう地域格差が拡大することが懸念されるが、開発主義を完全に清算しきれていない財界版財政シナリオではその克服は至難である。

 「第2章 関西の地域開発・都市開発の歴史から学ぶこと」では、過去の開発主義がもたらした負の遺産を検証した。もっぱら外部資源の導入と大規模土木事業による波及効果に期待した開発行政が、今日の危機を準備してきた。

 「第3章 サステイナブル関西への課題」では、私たちがめざすべき関西のあり方を展望している。その多様性と自然や文化的ストックという点に着目すれば関西は豊かであり、ストック重視の環境親和型ライフスタイルの確立をはかることが、関西のめざすべき将来像であることを提示した。

 「第4章 関西経済の課題と展望」では、都市の製造業、小売商業、地域金融、農業と都市・農村の連携という各側面について、現状を分析するととともにその発展のあり方を提起した。既存の集積と諸資源とを最大限に活用し、まちづくりと産業集積とを結合させて地域内経済循環をはかることが最も重要である。

 「第5章 サステイナブル関西への行財政システム」では、市町村合併の強行にみられるような小泉流行財政改革がもたらす地方自治の影響を検証し、私たちがめざすサステイナブル関西にふさわしい行財政システムを論じた。それぞれのコミュニティが持つ豊かな個性の発揮を前提として、自立コミュニティの緊密な連携を実現するために、基礎自治体の自治機能の再建強化がきわめて重要である。

 「第6章 市民自治で切り開くサステイナブル関西」では、1−5章における検討を総括し、市民と行政の新しい連携のあり方を主張している。従来、欧米に比較して市民自治が未成熟だといわれてきたわが国においても、まちづくり・村おこし運動の伝統と阪神淡路大震災の復興支援で活躍したボランティア活動の高まりとが結合し、多様で創造的な市民運動の発展がみられる。市民のこのような自発的活動に依拠し、「行政=サービスの提供者」「住民=サービスの受益者」という関係を超えた、市民・行政の本当の意味でのパートナーシップの発展が図られなけばならない。

本書の主張

 私たちは関西財界の危機感とは異なり、本質的には関西は「豊か」であると考えている。絶対的衰退への恐怖は、歪んだグローバル化を前提として国際的な安売り競争に勝ち抜き、金融グローバル化・カジノ経済化のもとで東京と世界都市化を競おうとすることから生まれている。確かにそのような無謀な競争から展望を切り開くことは不可能である。

 大事なことは、不毛な安売り競争の悪循環を断ち切り、既存の産業集積、豊富な人材、地域の金融資源、社会的・文化的資源を十全に活かしきることが必要である。私たちは、それを達成する鍵は、環境親和型ライフスタイル発信地として、それを主導し、支援する産業活動を励ますことであると考えている。労働集約型モノづくりの復権、高齢者を含む多様な労働資源の活用、地域金融の再生、地産地消をすすめ、地域内経済循環を築かなければならない。

 地域開発やまちづくりのあり方も、根本的な転換が図られる必要がある。私たちが求める地域開発は「まちづくり産業振興方式」の展開プロセスそのものとして、地域資源を最大限活用してすすめる内発的発展型の開発である。トップダウン型の都市計画システムもボトムアップ型の新しいシステムへと再編される。このとき大切なのはコミュニティの自立である。強制的な市町村合併よりも、むしろ考えるべきはより小単位の日常生活圏レベルでの自治機能の確立である。関西地域の自治体・コミュニティは、それぞれに豊かな個性を育んできた。その個性を大切にしながら自立コミュニティのネットワークを築くことが関西再生の基礎となるだろう。もちろん、それを支える行政のあり方も大きな変化を迫られる。自立した市民の自主的活動を励ます市民と行政の対等なパートナーシップが期待される。

(関西地域問題研究会事務局長 遠州 尋美)

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