重森 暁・大阪自治体問題研究所理事長(大阪経済大学教授)
大阪府は、この8月、「大阪府行財政計画(素案)」を発表した。それによると、大阪府一般会計の収支決算は、1998年度以来3年連続の赤字であり、財政の硬直度を示す経常収支比率は全国ワースト1を続けている。府債残高は2001年度末で4兆2800億円、標準財政規模の3.3倍に達する。長期財政推計によると、今後10年間に、毎年5000億円〜6000億円近い財源不足が生じ、このままでは「財政再建団体」に転落する。
では、なぜこのような危機的状態に陥ったのか。
第1の原因は、バブル経済の崩壊と長びく不況の中で、大阪府の税収が激減していることにある。大阪府税収入は、1990年度の1兆3510億円から1999年度には9072億円へと、3分の1減少した。なかでも法人2税(法人住民税と法人事業税)の落ち込みが激しく、1989年度の8352億円から1999年度には3948億円へと半分に低下している。
このような法人2税の減少の背景には、長期にわたる不況という全国共通の要因だけでなく、大阪地域経済の構造的問題がある。1970年代のオイルショック後の地域経済の落ち込みは、3大都市圏の中では大阪府が最も大きく、またその後の回復過程では大阪府が最もゆるやかであった。大阪府の地域経済の基盤が素材供給型の重化学工業にあり、そこからの転換に遅れをとったためである。
第2の原因は、このような税収落ち込みにもかかわらず、景気対策や地域経済活性化等の名目で数々の開発プロジェクトを進め、公共投資の規模を拡大したことにある。大阪府の公共投資は、1985年度の2647億円からピークの1995年度には7328億円へと2.8倍に膨らんだ。なかでも増大したのが「単独事業」であり、その財源の7〜8割は地方債であった。
第3の原因は、これまでに行われてきた「財政再建」の取り組みが失敗に終わっているということである。大阪府は、1996年に「財政健全化方策」を、1998年に「財政再建プログラム」を発表し、財政再建に取り組んできた。「大阪府行財政改革レポート」によると、この5年間で、歳出抑制で3620億円、歳入確保で2470億円の財政効果が上げられた。しかし、他方で、減収補てん債、退職手当債、財政健全化債などの借金、国から配分される地方交付税、減債基金からの借入などによる財源のやりくり等が2兆1277億円に達している。人件費が抑制され、公共投資もやや抑制されたが、再建方策の大部分は地方交付税の配分や借金による事態の先送りにすぎなかったのである。
「大阪府行財政計画(案)」は、「スリム、サービス、セーフティ」の3つのSに挑戦し、(1)全国一スリムな組織づくり、(2)「負の遺産」の整理、(3)新しい行政システム「大阪モデル」づくり、(4)全ての施策の評価と重点化、(5)財政再建団体転落の回避を進めるとしている。
その特徴の第1は、全国一スリムな組織づくりとして、今後10年間大阪府職員の20%にあたる3000人の削減を行い、福祉・医療・公衆衛生・教育・文化などの分野の行政を徹底して市町村や民間に移管しようとしていることにある。「計画(案)」は、これからの地方自治体の役割は「地域づくりのシンクタンク」になることだという。福祉・教育などの公共サービスの提供者としての役割を放棄し、政策提言や条件整備を行うだけでよいとしている。
第2に、これまで大阪府の企業局等が中心に進めてきたプロジェクトの失敗による借金を「負の遺産」として、整理する方針を打ちだしたことである。これから10年間でその穴埋めのために1500億円程度を一般会計から支出し、10年後には企業局を廃止するとしている。しかし、その財政責任を誰がとるのか、ほんとうに大規模プロジェクト方式から転換するのかは明らかではない。
第3に、新しい行政システムとして、「大阪都」ないし府市連合構想を打ちだしたことである。「計画(案)」のように、大阪府の行政を民間や市町村に移管していけば、ついには大阪府の仕事はなくなる。また、昨年秋発表された「市町村合併要綱(案)」を徹底して進めるならば、大阪府下は政令指定都市1、中核市11、特例市2ということになり、かなりの権限が基礎自治体に移ってしまう。そうなったときの大阪府の生き残り策を模索したのが「大阪都」構想だといえる。しかし、この「大阪都」構想は、慎重な調査研究をふまえたものとは思えない。
第4に、この「計画(案)」は、「財政再建団体への転落を回避する」ことを至上命令としているが、「財政再建を進める」とは言ってはいない。その手法はこれまでと同様、地方交付税や減収補てん債などに依存するものであり、今後10年間で府債残高は4兆2800億円から5兆1200億円へと1兆円近く増えることになっている。また、10年後には8010億円の借金が減債基金会計に残ることになる。今回の「計画(案)」は、大阪府財政の財政再建にはつながらない。
では、どのようにすれば大阪府財政は再建できるのであろうか。
第1に、公共投資を優先させる「成長型」財政運営から、基礎的公共サービスの提供と環境保全などを重視する「成熟型」財政運営に転換することである。
大阪府財政においては、いまだに4000億円というバブル期並みの公共投資予算が組まれている。経常収支比率が恒常的に100をこえるという状況の下では、本来公共投資に資金を回す余裕はないはずである。少なくとも税収の3割程度、2700億円程度の水準に公共投資を抑制する必要がある。
第2に、大阪地域経済の再生に向けた取り組みを全面的に進めることである。大阪府は、昨年秋「大阪産業再生プログラム」を発表し、中小企業の活力再生や新たな産業分野の創出などを柱として取り組んでいる。関経連自らが、「大阪地域経済の支店経済化によって絶対的衰退過程に入るおそれがある」と指摘しているが、大阪地域経済再生の主役は中小零細企業だとしても、同時に大企業の地域経済に対する責任が問われなければならない。
第3に、分権的税財政システムへの転換に向けた働きかけを強めることである。大阪府財政悪化の原因の一つは、府下における税収の3分の2までが国庫に吸い上げられ、大阪府にはわずか13%程度しか入らないという、税源配分上の問題にある。大都市における財政危機を打開するには、地方への税源移譲をはじめとする税財政ステムの分権改革がぜひとも求められるところである。
[参考文献]
重森 曉『分権社会の政策と財政』桜井書店、2001年
重森 曉他著『どこへゆく・大阪府行財政計画』自治体研究社、2001年