三重短期大学・大阪経済大学講師 柏原 誠
筆者が前回、府下の合併を整理したレポートを本誌上で行ったのは02年秋(本誌02年11月特集号)。それから、9ヵ月が経った。その間の動きについて再び整理をすることが本稿の課題である。
この間、全国的には、西尾私案や地制調の中間報告などが出され、地方交付税の減額など財政締め付けが行われた。その結果、今年7月1日現在、274の法定協議会を全市町村の45%にあたる1442市町村が構成している。
これと呼応して、前回レポート時では1ヵ所だった法定協議会も現在では4ヵ所になっている。特例法期限に間に合わせるために、粛々と法的手続きを進めているというのが現段階の特徴である。むろん前回指摘した「市民には見えないメリット」という問題が解決したのではなく、それを引きずったまま、手続きだけが進められているのである。
さて、その予備軍も含めて今一度合併の状況を整理しておきたい。まず、法定協議会が設置されているのは前述の通り4ヵ所である。
(1)富田林市・太子町・河南町・千早赤阪村地域では、前回のレポートで、02年4月合併のスケジュールが白紙化された協議会の模様を報告したが、その後の協議会の立て直しを目指した02年11月の第6回協議会以降、9ヵ月もの間協議会が開かれていない状態が続いている。大阪府の合併担当者は「ストップしたとの認識はない」というが、4月末就任した富田林新市長も枠組みの再考を示唆している。
(2)守口市・門真市合併協議会は今年2月の臨時市議会で議決され、4月に第1回の協議会を行って依頼、8月1日に第4回協議会を行った。ここでの特徴は、財政資料が第5回の協議会ではじめて公開されることが決まるなど、基本的な情報が市民に公開されていないこと、協議の内容も市民の立場から必要な質疑を行う委員に対して、「基本的な考え方が違うのだから、質疑を打ち切って採決を」などと、協議の場ではなく、儀式化・形骸化しているという実態がある。8月には新市建設計画についての住民アンケートが予定されている。これも合併が前提となっている内容だが、そのようなアンケートにも、「守口と門真の合併のことを知っていますか」という設問を入れざるを得ないところに、この合併の市民不在ぶりが表れている。
(3)堺市・美原町は、4月に設置、6月、7月とこれまで2回開かれた。ここでは、第1回に美原町側委員の一部の反対にもかかわらず、編入合併方式が決定され、その後は美原町側の堺市に対する条件闘争の観を呈している。条件とは堺市美原区の設置、公立保育所の存続、美原地域の都市拠点整備、鉄軌道整備などである。美原町住民の間に堺市へ吸収合併されることへの強い不安感があり、再度住民投票条例を制定しようとする住民の動きもある。堺市側では、大阪狭山市議会の住民発議による協議会設置議案否決によって同市との話が流れ、高石市では周知の通り、4月末の住民投票、市長選で高石市民の「堺との合併NO」の意思が明確となったため、美原との話が最後の頼みの綱となった。できる譲歩は全て行い、合併→政令指定都市を実現しようとしている。
(4)岸和田市・忠岡町の合併協議会は、7月に設立されたばかりで、8月に第1回が開かれる予定である。
その他、秋に法定協設置議決が見込まれる地域として、2地域がある。(5)泉南3市2町(泉佐野、泉南、阪南、田尻、岬)では、5月末に首長シンポを行い、各市町で住民説明会を行ってきた。秋には法定協設置案が議会に上程される見通しである。シンポでは、各首長の温度差の違いが感じられた。財政状況が極端に悪化している泉佐野・泉南は積極的推進、阪南・岬は周辺化を危惧し「住民投票実施」を公言、田尻は豊かな税収構造ゆえホンネは消極的であるが、広域行政の関係で泉佐野におつきあいといったところだ。
(6)交野・枚方・寝屋川3市では、5月から6月にかけて北大阪商工会議所などが中心となった「署名の会」が合併協議会設置の直接請求署名を集め(3市で有権者の9・1%)、各市長に提出された。各市長が意見をつけて議会にかけるのが次のステップである。3市の人口は、70万人を超え、政令指定都市を指向することになるだろう。
さらに、秋からは(7)北摂10市町村で協議会設置の直接請求署名が取り組まれる予定があり、その結果、44市町村中28市町村、町村では熊取を除く10町村が合併の動きに巻き込まれるという事態が起こりつつある。
一通り合併協議会を傍聴してきた筆者の印象は、関係者が一堂に会して合併について議論する場であるはずの合併協議会が多数決による審議打ち切りや、重要事項の「新市において協議」が目立つなど、議論し合意を重ねていく場とはなっていないということである。
したがって合併に対する考え方としては、基本の繰り返しになるだろうが、第1に合併は住民の意思によって判断されるべきだという原則を再確認することである。第2に協議会に対しては徹底した住民との情報の共有を要求し、また住民監視によって協議会の形骸化を防止することである。情報の点については、財政の見通しが示されること、住民の暮らしの点から合併を考えるための情報が重要だ。そして第3に住民自身が複雑な合併問題を学び考える機会を豊富に作り、合併への関心をたかめ議論を起こしていくことである。その中で、住民投票といった話も関心の的になっていくだろう。
なお、大阪府でも小規模町村の問題が焦眉となってきた。研究所では、府下町村の議員や関係自治体の職員組合と研究者で「町村自治確立研究会」を立ち上げ、小規模町村の自立に向けて行財政研究を強めていくことをお伝えし本稿の締めくくりとしたい。