大阪府下における市町村合併の現段階 ―04年冬
三重短期大学・大阪経済法科大学講師 柏原 誠
全国的な状況について
合併特例法期限まで1年あまりを残すのみとなった。総務省の発表によれば、1月28日現在で、法定合併協議会は506ヵ所、構成自治体は1893自治体となるなど、数字の上では「平成の大合併」は進展を見せている。一方では03年度後半は、「西尾私案」の空砲効果で急遽立ち上げた法定協議会でほころびが目立ってきた。新市名や庁舎位置、財産持ちよりなど、合併の基本的な項目で合意が出来ず、合併協議会からの脱退や、協議会自体の解散といった事例が相次いでいるのである。それぞれの自治体にとっても積極的な意味を見いだせない中で、「貧乏くじをひくまい」「できるだけ自分のところに有利に」という心理が働いているのである。一方、タイトなスケジュールの中で、重要な項目も「新市において協議」など先送りされ、住民に対する情報公開もなされない。協議会の空洞化も強まっている。
当然、住民の情報公開の要求、自己決定の要求は高まってくる。全国的に見ても、住民の直接請求によって合併の是非を問う住民投票条例が成立し、その結果合併協議から離脱する動きも散見されるようになっている。
法定協議会が設置されている地域の動き
この間、新しく泉州南法定協議会がスタートし、府下の法定協議会の数は5、構成自治体は15となった。各地域別の動きを簡単に整理する。
(1)富田林市・太子町・河南町・千早赤阪村合併協議会は、02年11月の第6回を最後に休止状態にあったが、03年の10月に、11ヵ月ぶりに第7回が行われた。席上、昨年就任した富田林市長が、すでに協議済みである合併方式を見直したい旨の発言を行ったが、千早赤阪村や太子町の委員からは反発があり、紛糾した。これを受けて、12月には市民アンケートを行った。アンケートでは、合併の賛否が4割ずつと2分され、合併の方式では「編入」支持と協議会の結論とは異なっている。現在の4市町村の枠組みは、各市町村の間でも、市民の合意の面でも維持できなくなっている。
(2)守口・門真地域では、協議会で十分な情報公開が行われないまま、一方で住民投票実現に向けた動きが強まっている。守口では03年9月の市長選挙では、現職が再選されたが、選挙戦で、3候補のうち2候補が住民投票推進、現職も一般的に否定しないという流れができた。これを受けて、保守から革新まで広範な団体・市民で構成されている「住民投票を求める守口市民連絡会」が直接請求も準備しながら住民投票実現に向けた運動を展開中である。議会の勢力分布でも、市長選挙時の対応や市民の世論の盛り上がりなどを背景に、住民投票条例を否決できない情勢が生まれつつある。門真でも、「門真の未来とまちづくりを考える市民の会」が住民投票に関する講演会や学習会を重ね、議会への働きかけを行いつつ、こちらも直接請求を準備中である。このような動きに、法定協でも2月には臨時会が開かれ、住民意向把握について協議されることになった。
(3)堺市・美原町では、第8回法定協でパブリックコメントを経たかたちで、新市建設計画が承認された。概算事業費は872億円、うち437億円を合併してくれる「ご褒美」として、美原町に集中投下する内容となっているなど、開発主義が色濃い内容である。協議会や当局では、住民意向の把握は、新市建設計画へのパブリック・コメントで行ったとされており、合併の是非そのものを判断する住民投票を実施する意思はない。美原町では、住民説明会で、水道事業管理者が合併を前提にして根拠となる資料を捏造する、あるいは、説明会後のアンケートで、賛成へ一方的に誘導するような設問が目立つなど、情報操作・秘密主義が横行し、住民の間での議論を妨げている。
当然、この地域でも住民の自己決定の要求が高まってくる。美原町では、03年2月に続き、再び住民投票条例制定の直接請求運動が取り組まれ、7106名(有権者の2割超)もの署名を集めたが、1月末の議会で否決された。請求代表者の住民自治の訴えの一方、町長の意見は「合併問題での住民投票は混乱を招く」というものであった。
堺市の方でも、堺市職労も加入するグループや、市民派グループがシンポや講演会を2月に相次いで開催、住民投票実現へ向けて協力を模索している。合併・政令市をテコに開発主義を進める市政のあり方が問われるだろう。
(4)岸和田市・忠岡町合併協議会では、事務・事業のすりあわせが粛々と進んでいるが、03年末の第5回協議会で、公立忠岡病院の取り扱いをめぐって、協議会の縮図がかいま見えた。岸和田市の委員からは、「岸和田市民病院があるのに、新市に2つの病院は不要」とする意見が出る一方、忠岡町からは「忠岡病院が残らないのであれば、この話はストップ」との意見も聞かれた。しかし、最終的に採用された事務局案は、建替え、存続するものの、診療科目や病床数が大幅に削減されるなど、近所で安心してかかれる病院の機能は大幅に低下するものであった。
(5)泉州南合併協議会は、03年12月に第1回が開かれた府下5番目の合併協議会である。泉佐野、泉南、阪南の3市と田尻、岬の2町で構成されている。財政的に厳しい状況になっている泉佐野と泉南の2市が積極的である一方、阪南、田尻、岬の3市町は首長が住民投票の実施を提案するなど慎重な態度を見せている。特例法期限まで1年強というタイトなスケジュールのもと、新設合併とすることや特例法の事実上の延長措置を利用して、平成17年9月の合併を目指すことなど、重要な項目が急ピッチで協議されている。3市町では、住民投票が首長提案で行われる見通しではあるが、7月11日という日付も噂される中、これにあわせて市町村建設計画を作成するべきだという意見も出されていた。住民投票は、投票そのものも重要だが、判断材料やそれを学習し、意見を形成する過程がきわめて重要であり、住民投票自体が形骸化することのないように注意する必要がある。
大阪府下のその他の合併の動き
そのほかにも合併をめぐる動きがある。注目すべきは、島本町が高槻市との合併を断念したことである。同町では、町長が態度を鮮明にしない中で、住民が合併問題についての学習を進め、03年秋には住民投票条例制定に向けて直接請求運動も進めていた。一方当局は、合併問題についての3千人町民アンケートを行ったが、その結果反対が48・7%と、賛成の20・3%を大幅に上回った。これを受けて04年1月の議会全員協議会で、町長が合併断念を公式に表明したものである。しかし、一方で大幅な行政改革を行うことも表明しており、引き続き、町行政のあり方についての議論が必要である。
その他、合併推進の立場からの動きも見られる。寝屋川・枚方・交野の3市で政令指定都市も視野に入れた合併を目指し、法定協設置の直接請求運動があり、法定数を上回る署名を集めたが、03年12月の議会で、枚方市は可決、寝屋川・交野は否決となり、合併協議会は設置されなかった。
また、年明け1月には池田市と豊能町でも2市町合併を目指して、法定協設置の直接請求運動が取り組まれ、法定数を上回る署名が提出された。提出の日から60日以内に何らかの判断を議会が示すことになる。
まとめ
紙幅の関係で簡単にまとめる。大阪でも、住民投票に向けた直接請求運動が取り組まれるようになってきた。市町村合併は誰が決めるのか、という大事なポイントに関わるテーマである。その点、合併協議会で決まったことが協議会だよりなどで流され、それが積み重なることによって合併自体が決まったこと、という雰囲気が作られようとしているがこれは間違いである。合併協議会は、合併する場合の条件を協議する場にすぎないのであり、合併するかどうかは、各自治体の判断ということになる。
各自治体の判断は、手続き的には各自治体の議会で行われる。しかし、議会で判断することが、こと合併問題についてみると、住民の意思が反映されたものになるかという問題がある。自治体を消滅させることまで議会に委任しているのか、合併問題は確かに難しい問題だが、だから議会や首長だけで判断していいことにはならない。難しい問題だからこそ、市民的な議論を深めて市民の意思を示す必要があるのではないか。市町村合併の問題で住民投票はやはり標準とされるべきである。
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