レポート 「木綿物語」などのプロジェクトを推進 ―岸和田市の産業振興のとりくみ―
岸和田市職労(市商工観光課) 木村元広
岸和田市で「木綿物語プロジェクト」の取組みが今春からスタートしました。広く市民に綿を栽培していただき、地域の繊維企業グループがその綿で様々な綿製品づくりを進めるプロジェクトです。
その第一弾として「木綿物語シンポジウム」を本年4月に業者や市民約80名の参加で開催。その記念講演で大阪市立大学の富澤教授は「サッカーに例えると、綿を栽培する市民はサポーター、その声援とエネルギーを受けてプレイヤーである繊維業者が奮闘し発展してほしい」など、期待の言葉を述べられました。
その「サポーター会員」は100名近くになりました。「木綿物語プロジェクトってステキな企画ですね。」「綿の木を育て製品化されたものを是非見たい。」「会員になって、来年の産業フェアではTシャツや靴下を買うぞ!」などの「綿への思い」がたくさん寄せられました。
この事業の推進に当っては、商工会議所や農協、観光振興協会の皆さんと共同で進めると共に、和歌山大学や近畿職業能力開発大学校との連携事業としても位置付けています。その推進組織である「産業振興ビジョン・プロジェクト推進委員会」は7月15日に発足させました。
プレイヤーになる企業は当初5社。「せめてイレブンに」の思いで「企業・団体関係者組織」を8月23日に発足させ、少しずつ参加協力企業が増えてきています。
きしわたの会の発足と発展
実は、このプロジェクトには前史があります。
1995年から97年にかけて、市職労をはじめ地域の労働組合、民商等が共同で「地域経済調査」の活動に取り組みました。その中で「原点に返って、綿づくりから取り組んではどうか」という意見が出たのがきっかけで、1996年に「綿づくりで夢を育ててみませんか」という呼びかけで市民団体「きしわたの会」(岸和田の綿の会)が発足しました。
会では、綿を栽培しながら、コットンカーニバルの開催など様々な活動を展開。当初は「和泉木綿の再生」など地域の歴史・文化・産業を見つめ直す活動が中心でしたが、「過去を振り返るだけでなく繊維業者との連携ができないか」と模索し続け、2000年からは、地域の紡績会社・織物会社等の協力を得て、自分達が栽培した綿を生かした靴下・Tシャツ・産着・タオル・ハンカチ・手拭いなど各種の「製品」づくりも進めてきました。
まだまだ課題がいっぱい
私も会の発足と取組みに参画してきました。その活動内容をおおさか自治体学校で報告させていただいたこともあります。その際「商品化や販路についてどう考えているのか」と質問され、「私達はあくまで応援団。そこまでは考えていない」と答えました。
それは、私自身「市民運動として産業振興に貢献する」という理念にこだわっていたからであり、商品化には大きな障害があったからです。
私達が栽培した綿で製品ができるなんて、当初は「夢のまた夢」でした。だから、新しい製品ができるたびに感動の連続でした。私達にしかできないオンリーワン製品です。しかし、よく考えると「素材はオンリーワンだが、出来上がった製品は既成のもの」です。商品にするためにはデザインを含めた商品企画や販売体制づくりが必要です。しかし、それらの課題はボランティアの市民組織では荷が重すぎます。
もう一つの問題は、日本では綿は全て輸入するので「種を取り除く機械」がないということでした。綿は栽培しても種を取らないと紡績はできません。私たちは昔ながらの「綿繰り道具」で種を取っていますが大変な作業です。
そこへ少しの光明がさしてきました。綿繰りの機械化については近畿職業能力開発大学校にお願いし、学生の課題として取り組んでいただきました。それが実用可能な試作品に仕上がりました。そして、製品化に向けて協力してくれる工作機械メーカーの方も現われ、企業内でプロジェクトチームを作って取り組んでくれました。
一方で、私達が借りていた畑や作業場を返却しなければならない、コットンカーニバルというイベントの予算も打ち切られる等々、会の存続も困難になる事態が次々に起こりました。「これは困った」と悩みましたが、「ここで中断してしまうと、会員だけでなく今まで協力していただいた方々に申し訳がない。企業の方々の力を借りてもう一歩進めるしかない」と考えたのが「木綿物語プロジェクト」です。
プロジェクト自身が 異業種交流の場
新たな商品を産み出す企業グループの組織化はまだ緒についたばかりです。繊維産業と一口に言っても、紡績、撚糸、広幅・小幅織物、ニット、染色、縫製、刺繍、プリントなど様々な業種、工程が分業化しており、それらの方々の協力がないと商品展開はできません。また、仕事がなくなって倒産・廃業する事業所も少なくありません。地域の中でこれらの工程をつなぎ合せたいと思い、いくつかの企業に相談を持ちかけていますが、簡単ではなさそうです。
実は、このプロジェクトのため、これまで「きしわたの会」に協力いただいた企業の方々に初めて集まってもらった時、名刺交換から始まるので少々驚きました。同じ地域でも業者の横のつながりは薄いということを実感しました。業種が違うとなおさらです。このような状況では、地域産業循環と言っても掛け声だけに終ってしまいます。
その意味で、このプロジェクトは、繊維だけでなく機械金属、そして農業者などいろんな人たちの出会いと交流の場であり、異業種交流の仕掛けづくりにもなっています。
好評だった産業フェア 「木綿物語コーナー」
11月7日に開催した岸和田市産業フェアでは「木綿物語コーナー」を開設し、プロジェクト参加企業や「きしわたの会」が各種製品の展示・販売を行ないました。そして、コーナーの前には新しい綿繰りの機械「くりくりワン」(おそらく日本初)5台が並びました。
サポーター会員は次々に苦労して育てた綿を持参。綿の分量に応じて「コットン券」(割引券)を受け取り、新しい機械で種を取ります。「くりくりワン」5台は絶えずフル稼働。多量の綿を持参し何時間も綿繰りを続けるサポーター会員、「はまってしもうた」と席を離れない子ども達、「これは何ですか。私もさせて」と順番を待つ人たち…。もちろん、参加企業の製品も好評でした。
とりあえず第一段階はそれなりの成果だと思います。しかし、本当のスタートはこれからです。多くの市民の「夢がつまった綿」の製品化に向けて、参加協力企業を広げながら知恵と力を出し合って、来年の産業フェア会場でどのような製品が並ぶのか…。楽しみですが不安もいっぱいです。いつの日か、新たな岸和田ブランドが誕生することを夢見ながら、一歩一歩前へ進んでいきたいと考えています。
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