論説 「三位一体の改革」の全体像をどうみるか −もとめられる自治体の足元からの運動
立命館大学政策科学部助教授 森 裕之(研究所理事)
地方六団体の改革案 −日本の地方自治史上画期的な出来事
2004年8月24日に地方六団体が政府へ提出した「国庫補助負担金等に関する改革案〜地方分権推進のための『三位一体の改革』〜」は、日本の地方自治の歴史からみても画期的なものであったといえる。この改革案の中心的な内容は「骨太の方針2004」で課された補助金改革案の取りまとめであったが、その副題からもわかるように「三位一体の改革」全体にまたがる提案が盛り込まれていた。
ここでは、「三位一体の改革」に関する前提条件として、国と地方の協議機関の設置、税源移譲との一体的実施、確実な税源移譲、地方交付税による確実な財政措置、施設整備事業に対する財政措置、自治体への負担転嫁の排除、新たな類似補助金の創設禁止、地方財政計画の作成にあたっての地方公共団体の意見の反映など、地方財政制度全般にわたる基本的方針が示された。
その下で「三位一体の改革」の全体像として、現行の2006年度までの改革期間を第1期改革とし、引き続き2007〜2009年度までを新たに第2期改革とすることを提言し、第1期改革と第2期改革においてそれぞれ3.2兆円と3.6兆円の補助金削減を行うことを提案した。また、それぞれの補助金削減にともなう税源移譲については、第1期改革は所得税から住民税へ3兆円、第2期改革は消費税から地方消費税へ3.6兆円を実施するとした。そして、地方六団体が提示した第1期改革における削減補助金数は実に149事業、8府省にもおよぶものとなった。
この地方六団体による「国庫補助負担金等に関する改革案」の取り組みは、各自治体関係団体が大同小異の下に包括的な地方財政制度の改革案とくに国庫補助負担金の改革内容について、詳細にまとめて政府に提案したという点で、日本の地方自治の歴史からみて画期的なものであった。義務教育費国庫負担金の削減など個別補助金の内容について自治体関係者の内部で大きく賛否が分かれたものもあるが、それらの立場や見解を超えて一つのものをまとめあげたことは地方自治運動の展開をみる上で重大な意味を持っている。また、地方六団体の要求を受けて、国と地方が対等に論議を行う機関として「国と地方の協議の場」が設置されたことも、日本の地方自治史上における画期的な出来事であった。
地方六団体による「三位一体の改革」案は、財務省、厚生労働省、国土交通省などの主要省庁によって真っ向から反対された。財務省は、地方財政計画に不適切な「過大計上」が7〜8兆円あるとして、地方交付税を大幅削減する方針を打ち出した。また、施設整備など公共事業の補助金削減に対しては税源移譲を行わないことも、財務省は引き続き主張した。国土交通省や農林水産省は公共事業関係の補助金は単なるカットにしかならないという財務省の主張に乗じ、所管する補助金削減に対して自治体にクギを刺した。厚生労働省は社会保障における国の役割を強調し、地方案にはなかった国民健康保険、生活保護、児童扶養手当の補助率引き下げを代替案として示した。総務省も中期地方財政ビジョンの策定を通じた単年度財源保障からの脱却や、交付税の人口や面積などに基づいた算定簡素化の推進など、地方六団体の財政要求とは合致しない方向性を打ち出している。このような地方案を「骨抜き」しようという政府内の圧力に対して、地方六団体は2004年11月17日に「地方分権推進総決起大会」を開き、国が地方六団体の信頼を裏切る事態になれば「『地方一揆』の実行を宣言する」として、政府との対決姿勢を強めながら改革実現を目指すアピールを行った。
政府の「全体像」の内容と評価
このような自治体、国、そして政府内部における激しい論争の中で、11月26日に「三位一体の改革」の全体像が決定された。結論からいえば、財務省などの議論に押し切られ、自治体にとっては厳しい総枠になる一方で、重要な争点については全て先送りされている。
まず、総枠として示された点についてみれば、補助金「改革」額は2兆8300億円程度となっているが、そのうち交付金化が6000億円分含まれており、これらは大部分が公共事業であり、国土交通省や農林水産省の意向が大きく反映されることになった。さらに、地方リストラ・負担分が4700億円とされており、これについては自治体にとって純粋な補助金カットになっている。また、税源移譲については総額で2兆4160億円となっているが、2004年度分の税源移譲がこの中に含まれてしまったために、実際の税源移譲額は1兆7600億円でしかない。「三位一体の改革」の名の下に国の財政再建を行うという実態は、今回示された「全体像」によっても明らかになったといえる。さらに、地方案にはなかった国民健康保険や児童扶助などの補助金削減が盛り込まれてしまった。しかも、それらの削減の行い方(全廃して一般財源化するのか、補助率を引き下げるだけなのか)については先送りとなっている。
気にかかるのは、このような「三位一体の改革」の結果にもかかわらず、自治体側の運動が盛り上がらないことである。一種のあきらめに捉えられてしまうと、これまでの地方関係者の画期的な運動が水泡に化してしまう可能性がある。各自治体の足元からの運動がこれまで以上に求められているといってよい。
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