阪南市における公民協働による地域福祉推進計画策定の成果と課題

阪南市保健福祉部・水野 謙二

はじめに

 阪南市は1992(平成3)年10月に市制施行を行い、人口6万人余り、高齢化率16.1%、少子化率15.3%、面積約36平方キロメートル、大阪市内から電車で約1時間という衛星都市です。

 暮らしを支える責任を持つ行政(職員)と、住みやすいまちづくりのために、自主的・自覚的に活動を展開する市民(住民)は、暮らしを営むうえでの課題について一致した認識を持っているのでしょうか?

 むしろ、認識の不一致が連携や協働の壁になっていないでしょうか。社会福祉法が成立し、2003年度以降、各自治体で地域福祉計画が策定されていますが、阪南市はこの動きに先立ち2001年3月に、公民協働で策定した理由や策定過程から成果と課題をご紹介します。

私たちの地域福祉計画とは

 私たちの地域福祉推進計画は、地域福祉を推進させるための計画です。どうすれば住みよい街となるか、「福祉のまちづくり」をどう進めるのか、どうすれば実現できるのか、市民の様々な生活要求に対応できる仕組みを、行政と市民が共に考え、その方法を探り合い、計画的に取り組んで行くための計画です。「福祉のまちづくり」の目指すべき姿を示すだけのものではなく、まちづくりを「公民」が協働して取り組むために、地域や暮らしの実態にこだわりながら、共通の理解と目標(夢)を持ち、市民・市職員などの意識の向上をはかるなど、それぞれが役割を分担し連携するための仕組みや条件整備などを計画化しました。また、本計画は市の総合計画のもとにあり、保健福祉の各個別計画を統合するものと位置づけています。

なぜ、公民協働で作るのか

 高齢者の孤独死を防いだり、障害を持つ方の自立を支えること等、行政施策だけではどうしても防ぎ・守りきれないものがあり、それが、近隣住民の協力がある時こそ守れ、実現されるのです。住民による福祉活動を進めることは、市として、保健福祉サービスの提供における公的責任を住民に転嫁するものではなく、実践的にも責任ある在宅サービスが市や介護保険等事業所から提供されているところにこそ、住民の主体的な活動や協力がうまれることの事例は多くあります。

 地域福祉は地域での住民活動を意味するだけのものでなく、行政はそうした活動を支援するだけのものでもありません。生活(人権)の保障は公的責任無くして実現しません。地域福祉は「公民」で住み暮らし合う街を創り上げることです。

 私たちの計画は、公の責任としての『行政施策計画』(いのちや暮しに関わる「基本的人権」の保障など)と、民の責任としての『市民活動計画』(地域で「孤立」させないことなど。孤独は自由ですが、孤立から生まれる自由はありません)が、暮らしの課題に対してキャッチボールするように協働し合い、一つの計画にまとめ上げられています。
 そして、民としての活動の「要(カナメ)」役に社会福祉協議会をパートナーとして位置づけました。

なぜ、地域福祉なのか

 阪南市においても、一人暮しで孤立せず、要介護や障害を持っても地域で暮して行けるか、元気に子育てが出きるだろうかなどの不安が大きくなっています。そして、深刻な財政状況の悪化から、財政難を共有しながら公民が協働して、地域を中心としたサービスの充実を図り、地域資源の有効活用を進めたいと考えています。

*第一次阪南市行財政改革実施計画(H9・3)
*第二次行財政改革実施計画(H 14・9)

 さらに重要なことは、市民の自主的な地域活動と権利意識の高揚が行政サービスを育てるということです。元気な市民を育てることは、行政への一方的な要望を助長するのではなく、むしろ、行政との協働を進め、暮しやすさの実現に通じるものです。

 私たちのモニター調査では、保健福祉サービス等の認知度及び利用度は、自治会や地域での自主的活動に参加しているか、それが複数の活動であるか等と高い相関関係にあることが明らかになりました。それは希薄になりつつある「隣近所との付き合い度」にも同じような結果が見られます。同時に、自分の(家族の)健康や暮らしを良くするために、保健福祉サービスを利用するという権利意識の高揚と深い関係が見られ、殊に介護保険(今では支援費制度も加わる)など契約でのサービス利用については重要となります。市民の権利意識の高揚と地域での自主的活動が、暮らしを支える上で重要な関係を持っているといえます。

 住民参画の重視とその過程 ―計画策定の過程が地域福祉を推進させる

 私たちの計画は、地域福祉を推進させる計画です。それは、市民主体の活動を支援するための計画であり、協働するための計画だということです。そのためにも、自分たちで作ったと言えるかどうかが重要となり、「一人ひとりを大切にした討議と合意の積み上げ」と「正確なデータ収集と切実な声の重視」を大切に、「計画策定がゴールではない」として、計画は作ってから動かすことが重要であるとし、計画を推進する主体者づくりを計画策定の中に組み入れ、計画策定の過程を、住民の活動体制づくり・活動おこしに繋げたいとしました。よって、策定過程には、独自の組織と調査手法などを必要としました。

組織:策定委員会と作業委員会。市長と社協会長連名の委嘱状を出しました。殊に策定後は地域福祉をリード・推進して行く責任と役割を担う直接サービス提供に関わる事業所を含めた公民の専門家や活動家で構成された「作業委員会」は重要です。

過程:埋もれている個別計画での調査データを再整理・分析を行い、地域福祉における問題や課題に関する「仮説」を立て、さらに地域(小学校区毎)の特性として明らかにしてゆきました。地域での民の活動の調整役として期待される校区福祉委員会、および、当事者を含む各種団体とのヒヤリング。そして2回の12校区別住民懇談会。「上戸の口は広いほど水の出る勢いは強い」と、多くの機会を通じて市民の声を聞いてきましたが、計画において取り組むべき地域福祉課題を明らかにするために、公募委員・福祉委員388名による2117名(回答数)の地域福祉を進める市民の繋がりを作ったモニター調査を実施しました。

成果と課題

 まず、公民協働の福祉のまちづくりを担い、考える基盤(体制)形成に繋がりました。また、保健・医療・福祉・教育に止まらず、公共施設や公園等都市基盤の差が、自分たちが暮らす地域(校区)毎の行政の課題や住民自身の活動課題の違いであることを、公民で確認し合え、策定途中から公民協働の地域改善の動きが高まっています。

 地域福祉計画を公民で作ろうとする過程が重要だと痛感します。

 住民活動は福祉委員会の地縁型やNPOのテーマ型等、活動のまちづくりへの飛躍的な展開を見せていますが、どう「自治力」「地域力」へと高めて行くか、自立した市民(個人)をあらためて繋ぎ合いコミュニティを作ることが今後の大きな課題となります。

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