大阪府立高等学校教職員組合 石崎真理子
9月13日、府教委財務課より「入学料納付期限の変更」が提示されました。その理由としてあげられたのが、未納者が相当数あり、未納のまま卒業・退学する生徒もあり他の生徒との公平性を欠き、その未納をなくすためというものでした。
提示内容の一つ目は、現在授業料第1期分と同じ4月20日とされている入学料の納付期限を3月31日に繰り上げるということです。
しかし次に示されたのは「入学料未納の場合は入学を取り消すことができる」の項目を新たに入れるということでした。「期限の変更」の表題には入りきれない重大な規則改定です。
たしかに入学料は「高等学校の授業料等に関する規則」に納付が定められています。一方、規則の根拠となる「大阪府立高等学校等条例」では、第8条に「入学検定料、入学料、授業料は特別の理由があると認めるときは、減額し、又は、免除することができる」ともなっています。にもかかわらず、授業料について定められている減免規程が入学料については定められていません。これでは払いたくても払えない生徒への救済措置のないまま、「入学取り消し」によって高校を追われる生徒がうまれる可能性があるということです。
府教委の資料によると、時効前5年間、2006年度全日制での未納者は444名で、その内訳は、失業・倒産・生業不振・長期疾病をはじめ経済的理由によるものが289名、生徒・保護者の所在不明等で接触できないものが155名となっています。これはまさに生徒・その家庭の生活の不安定・困難さを示すものではないでしょうか。実際この444名のうち180名が授業料においては減免を受けている生徒たちです。
府教委は「お金があるのに払わない人がいる」ということを規則改定の理由にしています。未納者の背景に経済的困難さが重く存在することを府教委自身が認めているにもかかわらずです。「入学取り消し」をちらつかせるならば未納者の数字は減るかもしれません。しかしそこには別の新たな問題が発生することも考えられますし、高校を追われることになった子どもの姿は見えなくなります。行政が冷たいと言われるとしたらこういう面ではないかという気がします。
そもそも入学料は何に使われているのでしょうか。府教委の説明は「印刷、生徒カード作成、通信、関わった人の人件費等に使われる。特定の人の便宜=その人の利益になる個人へのサービスは有料です」というものです。高等学校教育を受けること自体が「特定の人の利益」という教育行政の考えかたに疑問を禁じえません。
大教組・府高教では「(1)入学料未納による『入学取り消し』を盛り込んだ規則『改正』はおこなわないこと (2)入学料の減免ができるよう条例に沿って規則を改正すること」という、子どもの学ぶ権利を保障するという観点に絞って分会、民主団体を通じて府民に署名を訴えました。
一言欄には「経済的理由で退学につながるようなことは絶対やめて」「世界は教育費無償化へと流れているのに、これに逆行するもの」「毎日がんばって勉強している子どもを見ると、お金の事を心配させずに入学させてやりたい。親の経済力で教育が狭められることは絶対あってはならない」「やっと入学できた子どもたちを追い出すようなことはしないで」「子どもは親を選べません、家の経済力も選べません。子どもの責任ではないところで教育を受ける権利を奪わないで」と切実な声が寄せられました。
入学時には教科書や副読本、制服、教材教具などにまとまったお金が必要です。今でも分割払いにできないかという声が聞かれるなか、少なくない子どもたちが入り口で高校から閉め出されてしまうことになりかねません。府教委は「府民の声」「公平性」を強調しますが、納付できない家庭の子どもたちを切り捨てることを望んでいる父母がどれだけいると言うのでしょうか。
この入学料問題に先立って、2006年4月から授業料減免基準が改悪されました。新制度では、生活保護世帯には授業料分が生活扶助として支給される形となり、大阪府の減免制度から除外されました。一方、昨年までの許可基準が「生活保護世帯に準じる収入」となっていたものが、「住民税所得割非課税」以下まで引き下げられました。これによって許可率は昨年の95%から90%を切るまでに下がり、希望者のうち2605人が不許可となっています。
授業料だけでなく空調使用料5400円や、学校によっていくぶん差はありますが、修学旅行積立金やPTA会費など減免されない納付金もあり家庭には大きな負担です。このような経済状況でアルバイトに追われたり、クラブ活動に参加できないなどの生徒も多く、減免率の高い高校ではクラブへの加入者はあきらかに少なくなっています。
中退の理由は進路変更等さまざまで、すべてを把握し切れてはいませんが、それらの生徒の生活を見るとき、安心して学習やクラブ活動などに打ち込める環境にないことが中退につながる一因であろうと思います。
今回の大阪府教委の「入学取り消し」案は、授業料減免制度改悪に続き、経済的理由で子どもたちの学習権を奪ってしまう規則をつくろうというものです。格差が広がっている今だからこそ、教育基本法に定められた教育の機会均等を実現するための行政の働きが必要です。
経済的格差で教育の格差をつくり、子どもたちの将来を限定してしまうような行政をおこなわせてはなりません。しっかり府民の声を届ける運動を強めていくことがいっそう必要になっています。