第9次岸和田市政白書 財政問題中間報告

2章 財政健全化を市民とともに 

 2節 岸和田市財政危機の原因 

 岸和田市財政の現状は厳しい。では、市財政がこのように厳しい状況に陥った原因は何だろうか。市はどのように見ているのだろうか。市がこれまで作成した文書などを整理すると次の三点となる。

 第一に、これまでは、市財政の貯金である財政調整基金や減債基金を取り崩して収支を穴埋めし、赤字を出さないようにしてきたが、基金が底をつき、収支不足への対応力を急速に失うようになった。

 第二に、市税収入が大幅に減り、市税徴収率も落ち込んでいる。

 第三に、競輪事業と競艇事業からの収益事業収入が急激かつ大幅に減少している。

 たしかに、これらの収入の急速な減少が収支ギャップを生む一因であることはまちがいない。しかし、財政悪化の原因は、基金の減少、市税の落ち込み、収益事業収入の大幅減といった歳入面だけではない。表面的な現象の他に岸和田市の財政運営上に問題があると考える。

1980年代末までは岸和田市財政は堅実な財政運営を進め、第8次市政白書でも評価してきた。しかし、1990年代にその様子は一変した。公共事業が急増し、その財源として発行された地方債(借金)が膨張したのである。『アクションプラン』はもとより岸和田市のこれまでの文書は、市財政をここまで困難にさせた最大の原因が1990年代に入って行なわれたこうした財政運営によるものであることにまったくふれていない。岸和田市地域調査研究会が1997年10月の第8次市政白書で明らかにしたように、泉南地域の他の自治体に「遅れをとってはならじ」と「積極的に」事業を拡大してきた。地方債という借金で公共事業を拡大してきたために長期債務が莫大なものに膨らみ、これが財政悪化の一因になっているのである。

 岸和田市は収支ギャップがあることを最大の問題としているが、単なる収支ギャップの解消では、これまでの「積極的な」公共事業の拡大が、財政を硬直化し、さらにひどくなることが懸念される。『地方財政白書』では財政の硬直度は示す指標として経常収支比率・公債費負担比率・起債制限比率をあげている。また、「将来にわたる財政負担」をとりあげ、将来の財政負担がどうなのかを問題としている。いわば将来の財政硬直性を占う指標といえる。この四つの指標を見ると、現時点での硬直度は府内32市のうち上位3分の1程度の高さにあるが、将来の負担で見るとさらに6位と高くなっている。しかも、1995年度から今日に至るまで、公債費負担比率がほぼ横ばいなのを除き、いずれも急速に悪化していることが確認できる(図表7)。こうした点についてどうみるのかきわめて重要である。

図表7 岸和田市の財政硬直化(1999年度)
  府内32市平均 岸和田市
  府内32市中の順位 95年度の順位
経常収支比率 96.1% 95.3% 17位 28位
  うち公債費分 15.4% 16.8% 13位 24位
公債費負担比率 13.7% 15.2% 12位 (※) 1位
(94年度)11位
起債制限比率 10.4% 11.4% 13位 18位
将来にわたる実質的財政負担割合 1.64倍 2.47倍 6位 9位
(注) 「将来にわたる実質的財政負担割合」=(地方債現在高+債務負担行為に係る翌年度以降支出予定額−積立金現在高)/標準財政規模
(※) 岸和田市はこの年度に31億円の繰上償還をおこなったためにトップになったもので、例外的な順位である。この年度の繰上償還は、府内32市合計61億円の半分以上である。

 公共事業そのものを否定しているのではない。この間に行われた市の公共事業は下水道の整備であったり、公園の整備であったり、けっして市民生活の向上に反するものとは言えなかったことは確かだ。しかし、税収が大幅に落ち込んでいたなかで、事業規模や財源の見通し、事業を短期間に集中させてきた財政運営面での問題があったことも事実である。財政健全化策を作成するにあたっては、この点を岸和田市として総括しておくことは最低限の作業ではなかろうか。

 この時期に公共事業が拡大したのは、国による財政誘導があった。地域総合整備事業債(地総債)の発行という借金で財源を調達し、事業費と元利償還費の一定割合を地方交付税で補てんするという誘導策に乗ったのが最大の問題であった。こうした財政誘導策を国の財政援助ととらえて、市はこれを「自主的に判断して」「活用」したのだと考えているようだ。また、交付税措置によって市の財政負担はそれほど重くないかのような認識も市当局に随所にみられる。「計画的に」事業を進めたとも主張している。しかし、「計画的」でなかったからこそ今日の財政危機を招いたのである。「収入が減ったから」ではすまされない。収入の減少の兆候はいくらでもあった。国の財政措置を「自主的に判断して」「活用した」というのもいかにも苦しい弁解のように聞こえる。現に、財政の硬直化という形でその弊害が現れている事実を直視すべきだ。そういう楽観的な認識を持つことそのものが問題である。

 以上のように、岸和田市財政にとって心配されるのは、収支ギャップもさることながら、地方債の元利償還費の増大による財政の硬直化である。積立金も底をつき、財源調整のクッションがなくなりつつある。こうしたことを財政運営上の問題、構造的な財政問題として受けとめなくてはならない。

 健全かつ堅実だった岸和田市の財政運営は、1990年代のわずか10年間で転機を迎えている。この間の公共事業をめぐる財政運営への真撃で真剣な反省と検証を抜きにして、減量経営と市民負担の増だけを打ち出すことには賛成できない。