2000年7月1日(土)定期総会に先立って、記念シンポジウム「白書づくりの楽しみ」がホテルくれべ梅田において66名の参加で開催されました。本シンポジウムは、白書づくりの楽しみや醍醐味をもっと多くの人に知ってもらおうとはじめて企画されたもの。二人の研究者の問題提起を受けて、3つの組合から実践報告が行われました。
最初に問題提起を行った中山徹・奈良女子大学助教授は「情勢が求める自治研活動を展開しているのか」というテーマで、次のような提起を行いました。
市民の暮らしをめぐる状況は、学生の就職難、商店街の崩壊、経済的負担や保育条件の劣悪さ等から子どもを生めないという少子化社会の進行など深刻なものがある。他方、行政は民営化、規制緩和でどんどん市民生活を守る仕事から撤退してきている。そういう中で、労働組合がどういう視点で白書をつくるのかが問われてくる。つまり、白書づくりを通して自治体の果たす役割を問い直していくことが重要。このまま事態を放っておくと市民の暮らしがどうなっていくのか、を考えていく必要がある。自治体に求められているのものは何か常に問い直す必要がある。規制緩和、民営化等行政は市民生活が困難に陥っているが、そういう方向でいいのか。
具体的には、(1)白書づくりを通じて、公務労働の再点検を行っていく。最近、公立保育所の攻撃の中で、保育労働者が元気をなくしている。自らの仕事に自信と確信を持つことである。そのためには市民の実態を把握し、市民の目線にたった業務の見直しを提言していく必要がある。(2)白書づくりを通じて自治体労働者の政策形成能力つけていくことである。組合員は常に学びつづけているのか、問い直す必要がある。市民に立場に立って学びつづけているのは公務員の義務である。(3)白書づくりを通じて組合を発展させることである。国立大学でも独立行政法人で「親方日の丸」ではいかなくなっている。組合活動の活性化が不可欠である。(4)白書づくりを通じて地域の市民団体と連携していくことが重要。市民団体との懇談を通じて自らの業務を点検すると同時に連携を深めていく必要がある。
二人目は森裕之・大阪教育大学助教授が「白書づくりの楽しみ・行財政白書を念頭において」をテーマに提起を行いました。研究所の各地域の白書を読む機会があって、どれも同じ手法に見えた。そして、98年に交野市の財政分析が依頼があって、調べていくと信じられない行財政の実態−ハコモノ行政、土地開発公社−が見えてきた。同年8月に中間報告書を出した。それをほぼ名指しにした広報紙で批判を行ったのである。それから市職労の努力で市民アンケートを行った。なんと32.1%の人がコメント(自由記入欄)を書いてくれた。この白書づくりを通じて、ハコモノに対する市民評価を数量的に分析することを心がけた。苦労した点はアンケート調査票の内容の確定と統計処理であった。
白書とは、いわば自治体職員がつくる地域・自治体問題の診断書と処方箋と考えている。なぜ自治体職員かというと市政全体を見渡せる立場にいるからと資料の入手である。だから職員が中心にならざるを得ない。
白書をどう活用するのかという点では、第一は住民運動の発展に活用する。地域全体の展望を見通す学習資料として活用し、要求の主体から管理の主体へ成長する契機とすることである。そして、地域問題を市民参加により解決する戦略を構築することである。第二は、自治体の内部改革である。白書づくりというのはある意味では自治体の「内部告発」である。それをふまえて真の行財政改革を提言することである。
実践報告では(1)泉佐野市職労委員長・高道一郎氏、(2)交野市職労委員長・奥田仁久氏、(3)岸和田市職労自治研部長・佃孝三氏がそれぞれ報告。市政白書づくりの経験・醍醐味を披露していただきました。
今回は、時間が限られているということもあり、十分な質疑応答・討論ができず、参加者からは白書づくりのノウハウそのものを知りたいという感想もありました。研究所として、今回の初めての取り組みをふまえて、いっそう、白書づくりのノウハウ・楽しみ(「苦しみ」も含め)を研究・検討しながら、広く普及できるカタチにしていく必要があります。
(文責 織原)