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レポート
 時局講演会 「公共事業をどう変えるか」
 講師 保母武彦(島根大学教授)

 2002年2月9日にOMMビルで開催された時局講演会(57名参加)の要旨を紹介します。
         奈良女子大学大学院 藤森 麻子(要約)

中海干拓を中止に追い込んだ運動の教訓

 最初に、中海の運動について言及したい。中海干拓事業を中止に追い込んだのは大型公共事業では初めてである。中海干拓事業で大きな問題になったのは、環境、財政、地域経済(地域の特性)だ。

 公共事業だけでなく、福祉や地域づくりなどすべの運動や取り組みに共通するいくつかの教訓がある。第1は、地域の多数者になること。つまり住民ニーズの最大公約数を探し求めること。中海干拓事業の事例‐みんなが一致できる点は「泳げる宍道湖を取り戻そう」というのがスローガンだった。しかし、一般市民と漁師が漁業補償などの点で一致できなかった。農水省に漁業補償を(形式的には)返還した。その後足並みがそろうようになった。多数の人が同意できる点を探し、要求を一致させることが重要なのだ。

 第2に、政党と住民運動あるいは労働組合と住民運動の関係。一番状況にあった取り組みが大切である。どのような組織を作ったら一番実態に合うのか。多くの環境運動が、政党の関係で別れていってだめになってしまった。政党にしばられず力が分散しないようにできないか。政党までひっくるめて統一していくのが住民運動である。少しずつ異なる主張・要求をもっているので統合することはできないが、行動を一致させることはできるはずだ。

 第3は、科学の力を十分生かす。科学者の警鐘を住民団体が取り込む。住民団体の方でさまざまな研究を統合する。勉強をして力をつける。説得力を持たせるためには、科学的な根拠が必要である。政策を科学的に煮詰めることが必要だ。

 第4に、マスコミを情報発信の場として利用する。新聞記者たちとの勉強会、議論。彼らが情報源になる。 住民の7〜8割を味方につければ政党も動く。テレビ、新聞、雑誌などさまざまなメディアに顔を出し、多くの人の目に触れるようにする。つまり、情報の使い方なのだ。住民にどのように情報発信するのか。

 第5は資金の問題。動けば金は集まる。地元で資金提供者が現れる。住民の要求を基にして金の情報も入ってくる。使ってくれると分かっているところに情報は集まる。

 第6は、国の事業であるが、地元の政策を変えれば国を動かすことができる。長良川河口堰の運動は、建設省を相手にした運動だった。地方自治を変える運動ではなかった。中海干拓事業では地元市町村や県の議会を変えるところに重点を置いた。民主主義を動かす。どのようにして地域住民の要求・気持ちをつかむのか。

 鳥取県で公共事業が財政を圧迫したため、県営の福祉施設廃止の方針を打ち出した。その結果、住民の反対が大きくなり、県の審議会で通ったことも、議会で可決できなくなった。現在の知事になってから、必要な見直しはするけれど、残していくという方向になった。

 公共事業をどう変えるか、どう見るのか。次の視点が必要である。

(1)社会資本論として公共事業を見る‐社会の器をどうするのか。(産業基盤、生活基盤)
(2)公共投資論として公共事業を見る‐景気変動と政府の役割
(3)環境問題として公共事業を見る‐公共事業による環境破壊
(4)財政問題として公共事業を見る‐返す見込みのない借金。財政破綻が進んでいく。
(5)地域経済問題として公共事業を見る‐公共事業がなくなったら生活ができなくなる。

「公共事業現象」をどう見るか

 2000〜2001年に「公共事業見直し」の方針が出されてから変わり始めた。評価できることだが、問題点は次のとおり。

(1)見直しされた事業の件数は多いかもしれないが、事業費の面で見ると少ない。
(2)見直し基準には質的評価が含まれていない。
(3)公共事業の大本となる計画である国の「全国総合開発計画」と「公共事業の中・長期計画」を改革する取り組みはされていない。
(4)公共事業依存はよくないが、地域の暮らしと生活がかかっている。何らかの転換が必要。

  悪い状態からいい方向へ軟着陸させるのが政策、公共事業を切るだけでは地域は悲鳴を上げる。「骨太の方針」(2001年6月)では「新世紀型の社会資本整備−効果と効率の追求」と、新しい公共事業のあり方を提起している。

 無駄な公共事業をなくす解決の方向は「明確なビジョンに基づき、公共投資の硬直性を打破し、豊か国民生活や力強い経済活動の基盤となる、効果の大きい社会資本を最も効率的に整備する仕組み」の確立である。

 効果のあがるところ、つまり「都市再生」に公共投資を持ってくるということは、国土構造が変わってしまうのではないか。都市再生の問題(事業費がどんどん膨らんでいる)は、なぜそうなったのか。都市部での自民党の敗北(1998年7月)。地方重視からの転換。政治色が濃いといえる。

 人や資本といった経済が大都市に流れていくのは当然である。国が地方の都市や農村に地方交付税を払うことで平等化を図ろうとした。そんなことをするから日本の経済はここまで悪くなった。

 日本の経済成長率を引き上げるためには、労働力の資本の集まる都市への移動を助けるのものが、政策の本来の役目である。

 都市再生には二つある。(1)資本のための都市づくり、(2)生活者のための都市づくり。今発展しているのは、生活基盤が整い、文化が根付き、発展している都市。そのようなところに質の高い労働力、住民が集まり、企業が起こり、企業が集まり、経済を引っ張っている。

 今後、どう魅力のある都市にするかが課題である。産業基盤を整備すれば都市が再生されるのかというと、必ずしもそうではない。「都市再生」というものの議論をする必要がある。

今回の市町村合併の本質

 市町村合併が猛烈な勢いで進められている。市町村合併の本質をどう見るか。財政問題だけで見てよいのか。合併したからといって自動的に財政力がつくわけではない。

 市町村合併の本質は、国家権力の統治機構の再編成と考えられる。国家論であって地方自治論ではない。明治の大合併は自由民権運動の影響。土地所有形態の変化。地主の自治を作った。昭和の大合併は、地主制の解体。地方統治機構の変化。平成の大合併は何か。金がやれないなら権力的な統一をするしかないということだ。

上記、行事での当日配布のレジュメ・資料等、及び報告集等について必要な方は、(社)大阪自治体問題研究所までお問い合わせください。

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