さる11月2日、南森町・東興ホテルにおいて関西地域問題研究会・中間報告会が開かれ22名が参加した。中間報告会では、2003年秋に出版予定の最終報告書をつらぬく基調(総論)を討論する位置づけで開催された。大阪以外からも、奈良、兵庫研究所からも参加し、活発な討論が行われた。最初に、遠藤宏一・大阪市立大学商学部教授(研究会代表)が以下の要旨で基調講演を行った。
サスティナブル(維持可能な)・シティをキーワードに最終報告をまとめることを前提に、まず、関西における地域政策・産業政策の史的総括を次の四つの特徴をまとめました。第一に東京−大阪という「二眼レフ」つまり、東京の後追い開発を行ってきたこと。産業構造の転換をすすめ、外来型地域開発を行ってきたこと。その過程で開発をとりまくの条件−財政危機、不況などがおそいかかり、地域の矛盾を一層拡大した。
第二に大阪・関西の都市開発の推進主体は何か−地元財界の内在的要求にもとづいて推進してきたのか。そうではなく、大阪商工会議所から関西経済連合会へ主導権が移り、全国展開する住友、三和、松下などの資本が自らの利害にもとづいて、広域的なプロジェクト開発を行ってきたこと。関西の地盤沈下の張本人は関西財界自らであること。行政主体としては神戸市や大阪市等の都市専門官僚が担った。
第三につねに大阪府と大阪市が対抗の構図があったこと。
第四に大阪の開発は、一貫して外来型開発−コンビナート、万博、空港、オリンピック、USJ−であって、既存産業を軽視し、「公共・土木事業依存」であった。つまり、「間接的産業振興」であった。
結局は、失業問題である。国勢調査によれば大阪が7%(2000年)、02年3月の近畿2府4県の失業率は7.1%、最新値では7.3%に上昇している。その背景には在来型産業の急速な縮小があり、それを反映して大阪府下の衛星都市は軒並み深刻な財政危機におちいっている。また、大阪府総合計画によれば、人口予測を2025年で、50万人の減少を見込んでいる。
このような状況を背景に、関経連「関西経済再生シナリオ」(99・12)、大阪府「大阪産業再生プログラム」(00・9)、日本経済新聞「関西大改革−地域再生への提言−」(01・3)、国土交通省「大都市圏のリノベーション・プログラム」など続々と危機感をもって提言を発表している。これらの共通認識は関西経済の「絶対的衰退」という認識、関西のアイデンティティの低下、関西のものづくり基盤の低下、「支店経済化」の進展などが特徴である。こうしたもとで、従来の外来型開発路線を脱し、関西のアイデンティティを回復し、「関西版」内発的発展論を打ち出している。
すなわち、関西経済のポテンシャルの再評価、ハード偏重のインフラ整備からソフトのインフラ整備重視、情報通信ネットワークの構築とヒューマンネットワークの強化などをキー概念に、「ヘルスケア・アメニティ産業」、「ヒューマンタッチ・ビジネス」、「時間創出型産業」、「ライブ&こだわり産業」、「バーチャル&リアルネットワークサポートビジネス」の5つの産業を関西経済のフロントランナーとして位置づけている(「関西経済再生シナリオ」)。その他、中小企業を位置づけ「創業」を支援する。そして、一貫して関西の広域連携・広域行政を重視していることがもう一つの特徴としていえる。
われわれはすでに、過去に先進的な問題提起を行ってきた。1979年の『躍進大阪』において、関空中心の大型土木公共投資より生活関連・防災型公共投資の方が経済・雇用効果が高いことを産業連関表を駆使して実証して提起した。これを中村剛治郎・現横浜国立大学教授が「まちづくり振興方式」として理論化した。また、宮本憲一・木下滋・山田明氏らの共同論文で、(1)アメニティのあるまちづくり、(2)バランスのとれた産業構造、特に地場の中小企業の内発的発展を重視すること、(3)大阪圏における地域分業と協業をはかること、(4)大阪府の地帯構造の改革、(5)これらの担い手としての住民自治や自治体財政権の確立、を1986年に発表していた(「大阪の危機と再生」柴田徳衛編『21世紀への大都市像』東大出版会)。
政財界のプランに対しては、関西再生は単なる経済活性化にあるのではなく、都市住民の「生活の質」を向上させる目的とそれを実現するための都市社会政策が必要であり、その前提として掘り下げた実態把握、とくに中小企業政策の推進が求められる。
われわれの地獄図をきちんと描くことが必要であること、EUのサスティナブル・シティの取り組みに学ぶこと。そして、関西・大阪における先進的取り組み・ささやかな「芽」を発掘することが必要である。そのうえで、「地域内経済循環システム」、「循環型社会システム」、「自律生活圏」と分権型福祉社会をキーワードに最終報告書をまとめることが必要ではないか、と考える。
以上の遠藤講演を受けて、予定討論が行われた。遠州尋美・大阪経済大学教授(研究会事務局長)がささやかな「芽」を発掘するだけでなく、実践することが求められるとして、墨田区の3M運動、愛知のコミュニティバンクの取り組みについてその到達と課題を紹介された。藤永延代・おおさか市民ネットワーク代表は地球環境問題の視点から、「使い捨て経済」から「使い回し経済」の循環型社会に転換し、そのための税制構築も研究する必要性などを提起した。
討論の中では、関西再生の前提として日本再生も関西から発信すること、NPOへの着目、将来を担う若手研究者・専門家の育成、関西圏という視野で考えるとサスティナブル・シティではなく、「ソサイエティ」としてはどうか。行政組織の革新の必要性、などの論点が出された。
最後に、コーディネーターの重森暁・大阪経済大学教授は次のようにまとめを行った。(1)少子・高齢化時代において経済成長から地域の成長管理政策へ転換すること、(2)ハードから人づくりのためのソフト(保健・医療、福祉、教育)へのインフラ整備の転換、(3)都市における自然の回復と関西圏における都市−農村関係を変革すること、(4)自治体の役割としてサービス供給、規制・コントロール・コーディネートが重要であること、(5)分権的な税財政改革のいっそうの推進と環境・リサイクル税制の整備。今後、研究会として事例の発見、評価にも重点をおくことを強調して散会した。
(文責 織原 泰)