2003年1月16日(木)と23日(木)午後、2日間にわたって、大阪自治体問題研究所主催の冬季集中講座「自治体改革の争点」が開催され、27名が参加しました。以下、講座の要旨を紹介します。
地方分権の流れは、89年第2次行政改革推進会議の「国と地方に関する小委員会」で「地方分権」を打ち出したのが始まりで行革審に引き継がれていく。
94年には、「受け皿」論を棚上げにして、第24次地方制度調査会は現行の都道府県−市町村制を前提に分権を進めるべきという答申を出した。そして、地方分権推進法が制定され、地方分権推進委員会が設立され、地方分権が進められていく。自主的合併という立場で95年合併特例法が改正される。
96年から98年にかけて分権改革は大きくトーンダウン。橋本内閣の登場で、自己決定型分権論は後退し、6大改革をはじめ行政改革会議は省庁改革に重点がシフトし、分権はマイナーに。98年初めに、第25次地方制度調査会「合併に関する答申」が出され、住民発議、地域審議会、財政支援措置を提起した。同時に、自民党行革推進本部も「市町村合併についての考え方」を出し、内容は前者とうりふたつのものだった。この時期から「平成の大合併」が始動しはじめたと考えられる。
99年合併特例法が改正され、期限付きで特例債などの財政支援が盛り込まれ、他方、地方交付税の段階補正が削減される。また自自公の政策合意として市町村合併で3300自治体から1000にする内容が入った。00年12月政府の行政改革大綱で正式に1000が方針となる。
小泉内閣の骨太方針の一環として片山プランが打ち出され、合併協議会・研究会が急増する。他方、「合併しない宣言」をする自治体も広がり、法期限までに合併を目標としている市町村は700にすぎないことが明らかになる。そこで、02年に入って総務大臣の市町村長への私信が出されたり、地方制度調査会や総務省・自民党では、法期限後の対応も議論されるようになる。基礎自治体の最低要件を1万人に法定、1万人未満の自治体の強制合併、非合併自治体の権限縮小などの内容が明らかになった。その中で11月1日西尾私案が出された。これに対抗して、町村会・議長会の声明や「粉砕プログラム」が出され反対意見書の広がり「小さくても輝く自治体フォーラム」が企画されている。
もう一つの自治体改革を対置することが求められる。95・99年の合併特例法を廃止して、65年法にもどす。住民投票を合併の要件にする。税源移譲と交付税改革(補助金化部分の除去・原資確保)。「小さくても自立」の道確保のための「組合」「広域連合」などの選択を認める、などがあげられる。地方制度改革・合併問題を政治的争点にして、政治的力関係を変えていく必要がある。
日本経済はデフレの「わな」に落ちいっている。名目GDPが97年以降低下を続けているというかつてない長期低迷だ。小泉内閣は供給サイドに原因があるとしているが、需要が不足していることは明らかだ。不況が恒常化している原因はデフレと資産デフレの同時進行がある。これが投資意欲・消費意欲を減退させ、需要停滞・減少、いっそうデフレを加速する。小泉はアメリカ経済の回復に期待をかけているが先行き不透明だ。
なぜ小泉「構造改革」が支持されているのか。背景には工業化社会からポスト工業化社会への移行や日本型システム(終身雇用、年功賃金、系列関係)の崩壊がある。いまの小泉内閣の「構造改革」政策により不良債権処理で100万人前後の失業者が出ることは確実。「特区」を最後の切り札として持ち出すしかないほど無策だ。
85年プラザ合意以降、地域経済は二つの国際化がすすんだ。一つは資本蓄積のグローバル化(生産拠点の海外移転)、もう一つは「政策の国際化」(経済構造調整政策)。95年以降、製造業、農業など就業人口が初めて減少。事業所数でも東京と大阪の減少が激しい。工業製品の輸入は80年以降、中小企業性製品の輸入額が3倍強となった。
就業構造も転換し、労働力のミスマッチ現象と失業率の上昇が現れている。日本の失業統計の欠陥から実質は倍以上の失業率。また、最近では景気が回復しても失業率は低下しないという構造的問題がある。なかでも大阪の失業率が高い。大規模プロジェクトをすすめ、土木型公共事業依存に高い失業率の要因がある。
地域経済をいかに再生するか。外国の先進事例に学ぶことも必要だ。イタリアでは州(日本でいう都道府県)がきめ細かな政策を実施し、中小企業が元気だ。またヨーロッパのサスティナブル・シティにも学ぶことが必要。われわれがめざすべき政策目標は、ものづくりを核とする創造都市とリバブルシティ(Livable city)である。
アメリカの工場閉鎖法のような企業活動の民主的規制を推進し、金融機関の地域内再投資をすすめる誘導策が必要。オランダ・モデルのようなワークシェアリングを実施し、豊かさを分かち合う社会の実現をめざすべきだ。
団地内取り引きや共同受注を行って倒産企業を出していないナニワ企業団地など先進的取り組みが始まっている。東大阪ではロダン21(異業種グループ)がものづくりのエキスパートとして活躍している。自分たちで知恵を出し、オリジナルなものを創り出している。
商店街では京都市の西新道錦会商店街ががんばっている。商店街をまちづくりの核と位置づけ、各種イベントを通じ共同受注を行っている。
金融では八光信金の取り組みが注目される。担保主義をとらず、地域で集めた金をできるだけ地域に再投資していこうという取り組みだ。
これからはものづくりの文化化・芸術化をめざすべきだ。大阪の中小企業の集積を生かし、知恵を出し合えば元気も出てくる。現実を客観的にきびしく見ながらも、夢を語り合うことが必要だ。
サスティナブル(持続可能な)・シティをどうつくるかはいま重要な問題となっている。大阪の都市発展は3つの段階がある。豊臣・徳川時代、明治維新、明治、大正、高度成長期。明治までは大阪は日本一の工業都市であった。高度成長期は、海面埋め立てとコンビナート開発、万博が今日の骨格をつくった。 都市開発は、大阪の場合やるべきことをやりつくした。大阪はアイデンティティが希薄な町。高度成長期以降、歴史的文化的資産を破壊しつくしてしまった。大阪は、不健康で危険で汚い都市になってしまった。行政は砲兵工廠、運河、橋などを破壊した。豊臣以来の都市づくりのストックを生かしてこなかった。他方、中の島公会堂を守る運動などは保存運動の革新性を示した。都市の歴史的価値・品格を高めることは、価値あるストックを守ること。これが地域経済の活性化にもつながる。
小泉「都市再生」は開発主義プロジェクト。掲げている「目標」は、都市の外延化を抑制し、コンパクトな都市構造への転換、危険な市街地・交通事故など「20世紀の負の遺産」の解消などだが、本質は民間活力の活用・規制緩和だ。民間会社が強制収用権をもつ再開発事業の施行者になれるという制度改悪がされた。小泉「都市再生」は、中央集権的で地方分権の流れに逆行し、究極の建築の自由によって、都市環境の悪化=新たな「負の遺産」がもたらされる。本当の都市再生には、デフレ対策、購買力の回復が必要であり、都市環境改善には規制緩和ではなく、木造密集地区対策、公共交通充実、耐震補強などやるべきことはたくさんある。
地球環境時代の都市のあり方は「サスティナブル・シティ」だ。持続的に住み産業が発展し、かつ地球環境に害悪を及ばさない取り組みである。大きな国際的な環境会議のたびにEUは戦略を立てて取り組んできた。94年の「オールボー憲章」では、地球の持続にはサスティナブルな地域コミュニティが必要で、生活水準は自然環境容量に従うべきで、社会的公正、持続可能な経済、環境の維持可能性、効率的な土地利用・公共交通サービスなどがあげられている。
まず、都市内の高速道路を撤去し、川や運河を復活させる必要がある。高速道路の撤去は世界の潮流になっている。オリンピックで競うよりよほどましだ。サンフランシスコの事例は有名だ。ソウル市でも高架道路を廃止し、川をよみがえらせる清渓川の復活プロジェクトを市長の公約として本気で取り組んでいる。これに学ぶ必要がある。
全国的にも大阪府、府下衛星都市の財政危機は深刻である。今回は戦後3回目。1回目は1953〜55年度で4割の自治体が赤字であった。この時は昭和の大合併が推進された。第2回目はオイルショックの時期で、これを契機に革新自治体が後退し、都市経営論や地方行革が登場。今回は98年秋からで4大都府県が「財政非常事態宣言」が出された。これを背景に合併推進が出されてくる。99年度の決算では15自治体が赤字でそのうち10が大阪である。大都市圏に財政危機が現れている。
03年度地方財政計画の大きな問題は、義務教育国庫負担金の削減だ。府財政は経常収支比率ワースト1で推移している。大阪市も昨年の秋に「財政非常事態宣言」を出した。府下市町村財政の状況は、01年度では実質収支赤字が40億円、経常収支比率が95・1だ。実質収支赤字の自治体は10、経常収支比率100以上の自治体が9、である。
背景には地域経済の停滞と税収の低下がある。大阪府税収は91年がピークで、30%強減少している。大阪市は全体で9・7%の減少(94年度比)であるが、固定資産税と法人市民税の落ち込みが激しい。府下市町村では税収は11・4%(97年度比)減、市町村民税の減収が大きい(△21・3%)。
財政危機の要因は都市間競争による投資的経費の拡大だ。大阪府は89年度を100とすると95年度がピークで189、01年度で102。危機にある中でも89年度並みである。府下衛星都市は、10年間の普通建設事業費を指標にみると「開発型」、「成熟型」、「中間型」と分類できる。
不況による貧困層の増大、高齢化の進展など社会構造が変化している。府下市町村の経常収支比率(91―01年度)をみると、扶助費をはじめ義務的経費が+6・7、物件費+2・8、繰出金+5・4で、繰出金の内訳をみると、国保+113・2、老人保健医療+65・0、下水道+23・6である。義務的経費の増大と繰出金の増大が危機の要因である。
府下自治体では交付税交付団体は90年代に増加している。本来、財政基盤が強い大都市部で交付されることは、地方への税源移譲をはじめ税財政改革が必要。
現行の「財政再建方策」は、人件費削減・民間委託、住民負担の増大が基本で、相変わらず「成長型」財政運営を行い、職員参加、市民参加が欠落している。
社会構造の変化に応じた「成熟型」財政運営への転換が重要。ハコモノ建設よりソフト面や人的サービスやネットワークの充実だ。その際、公務労働の役割は、公共サービスの提供、地域の規制と管理、市民参加のコーディネーター、である。さらに政策目標、市民参加、予算改革を重視した民主的行財政システムの導入が必要。「サスティナブル・シティ」とめざすまちづくりの目標や情報公開や市民参加による財政再生の取り組み、自治体会計の改革(経常予算と資本予算の区分)が求められている。また、柔構造型分権型への税財政システム改革が重要である。税源移譲と課税自主権の確立が必要だ。
(文責 織原)