大阪大都市圏研究会第6回公開研究会は、2007年12月13日に開催されました。
はじめに、研究会代表・シンポジウムコーディネーターの樫原正澄・関西大学教授から、挨拶を兼ね、研究所がすすめている大阪の地域研究の経緯と大阪大都市圏研究会の取組・紹介が行われました。
つづいて、中山徹・大阪府立大学人間社会学部教授から「野宿生活者(ホームレス)問題と自立支援」と題し、2時間あまりにわたり詳細な資料をもとにご講演いただきました。
講演は、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(2002年8月施行)に基づく同法基本方針(2003年7月)のもとでの、大阪府の実施計画「大阪府ホームレスの自立の支援等に関する実施計画」(2004年3月)、大阪市実施計画「大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画」(2004年3月)に触れての実践的な講演内容となりました。中山教授ご自身は、大阪府・市が最初に取り組んだ実態調査に直接参画されてきただけでなく、2007年に入ってからも民間版「もうひとつの全国ホームレス」調査、「西成区生活保護受給者調査」を、同年2月には、厚生労働省・国土交通省「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づく「全国ホームレス概数調査・生活実態調査(全数調査)」を尼崎市で実施されています。また、7月には厚生労働省「日雇い派遣労働者の実態に関する調査」にも取り組まれてきました。日本で最初の実践的な調査活動だけでなく、韓国ソウル市内の鐘路区敦義洞地域(日払い居住密集地域=「ドヤ街」)における街再生の課題等、国際的調査もすすめられています。
中山教授は、講演の最初に、野宿生活者(ホームレス)の定義にふれられ、本来「ホームレス」という言葉は「居住」という視点から見た概念であるが、同時に現代的な「貧困」概念でもあること、したがって、日本の「和製英語」(ホームレス)では、単に「住めばいい」=「畳に上がる」ということでは済まされるものでなく、「住まい方・生活のあり方」(広い意味での「自立」)といった観点からも、今日、その定義を再度捉えなおす必要性が問われつつあると問題提起されました。
国も地方都市も、今日の広がる格差社会のもとで、居住確保の深刻の度合いが更に深まっていること、とりわけ、大都市を中心とした貧困生活層においては、?居住問題と露宿者(人)との属性の近似性、?往環層(野宿と居宅を行き来し、繰り返す層)問題も抱えている現実があることから、その社会政策的展開は、国・自治体・NPO・ボランティアを繋ぐ様々な社会保障施策、社会資源を活用した有効な「あるべきホームレス支援システム」が模索されなければならないと強調されました。
そして、日本の野宿生活者(ホームレス)の問題は様々な社会的な不利条件を抱える人々に関する問題と共通性をもっており、「社会排除」と「社会的包摂」といった考え方に基づく「支援の仕組みづくり」が進められようとしていると言っていいのではないか。その概要は、先進国のホームレス概念・支援システムとを国際比較すると理解しやすいものになっている。先進国においては、路上(野宿)からの脱却だけでなく、「畳」に上がってからの支援まで含めたトータルな支援システムが構築されているのであり、それと比較して、わが国の「ホームレス支援法」は、極めて日本的な「自立支援」策と言ってよい程の狭い範囲に止まっているのではないか。今日求められる「トータルな支援システム」の構築は、次の四つの局面とその対応施策・支援システムの構築、確実なケアが必要となってくる。
□第一の局面=「ホームレス(路上・野宿)」生活者の予備軍に対する支援・防止策。即ち、社会保障制度・施策を充足し、セーフティネットとして機能出来ているか。
□第二の局面=路上(野宿)生活者に対する支援。今日の「ホームレス」に対する支援はどのように進められているのか。その手立ては充分なものになっているか。
□第三の局面=「中間施設」等居住施設と支援、再「野宿」化の防止、生活の再構築。それを支える手立てはその地域に存在するのか否かを検証する。
□第四の局面=居住確保後の「地域住民として生活の継続」保障。地域での受け容れるコミュニティを含む就労等の保証、あるいはケース自身が持つ力量が保ち続けることが出来るのか否か。
こうした段階を国際比較で見ていくと、それぞれの国における支援施策・力点がどこに置かれているか分かりやすい。
韓国では、「失職露宿者・人」と旧来の「浮浪者」を明確に区別している。韓国社会事業法で支援を制度化し、「ドロップ・イン・センター」を主要都市に置き、出口問題としての居住施策・就労施策を展開している。「全失露協」所属の宗教・市民団体による支援も大きく、IMF経済危機以降はテント・小屋がけは一時期を除いて無くなっている。
香港では、露宿者に対するNGO支援が大きく、日本と異なり夜9時過ぎの実態調査で正確な対象を把握した上、包括的社会保障制度の露宿者への適用を、また、台湾では「遊民」と呼称されるホームレスが存在するが、対応する台北縣・市の社会局は、GISを活用した支援システムを構築している。その支援システムの中心は労工局・職業安定所であり、救世軍による炊き出しとワンストップサービスを繋ぎ、支援が受けやすい体制を築いている。大阪城公園にも登場した医療支援も民間団体としてネットワークされている。うらやましいことに、ここでは措置権を持つCWが二人配置され、専門性が高いシステム対応がなされている。日本が手法を学びとりたい点だ。
英国、特にイングランドでは、ホームレスに対する地方自治体の住宅提供の義務をうたった住宅法が存在する。「住まいは人権」といった施策・視点から「寒い路上から屋内へ」「2003年までに3分の1に減らす」という国家的戦略・数値目標を立て、「巡回相談」による取り組みが旺盛にすすめられた結果、段階的に(1)今日の野宿者の救済、(2)生活の再構築、(3)明日の野宿者を防止するという、三大政策目標は実際に達成されている。
これらの国際的事例で示した第一段階から第四段階までを視野に入れた「トータルな支援システム」の構築が「ケアのための支援システム」として重要なのだが、日本のいわゆる「ホームレス自立支援法」は、第二、第三段階に焦点化しており、偏りが顕著である。特に、長期化、往還層「再流入層」問題がある。さらに新規流入層をどのようにして止めるのかといった視点が「脆弱」になってきていることが指摘されなければならない。
最後に、中山教授は広義のホームレス像を捉える上で、それにいたる「経路」を概観し、要旨、次のように述べられました。
日本のホームレス支援は第二の局面=路上(野宿)生活者そのものを街から見えなくする支援、そして、第三の局面=「中間施設」等居住施設を経由させる再「野宿」化防止に集中した支援策に集中している。最近、マスコミを賑わしている「ネットカフェ」を大阪市内・難波の繁華街で調査してみた。「ネットカフェ」で生活を送る若者と中高年の生活ぶりを対面インタビューしたものだが、明らかに貧困を背負った暮らしぶりが認められた。彼らは今後、新たな野宿生活者になるおそれがある。それは実際に、自立支援センター入所者の中に「ネットカフェ」利用者が1〜2割確認されていた事実で裏付けられる。
現状としては、増え続けるホームレスに対する「生活保護運用の弾力化」の進展の中、その「住宅確保」問題が「自立・支援」問題の解決策としてクローズアップされてきている。「行路病人」(いわゆる行き倒れ)の入院医療給付費用と居宅保護費用との経済的比較・有効性の分析・評価については今後、議論のあるところだ。
今日、自立支援策の展開のもとで、長期化・高齢化がすすむ一方、「往還」層、新たなホームレス予備軍等様々な困難層が表面化して来ている。少なくとも先に述べた四つの段階・局面で、野宿生活者(ホームレス)の総合的自立支援システムの構築が求められているのは明らかである。
筆者は、この問題解決には、法令を含む社会保障関係の再構築をどのように組み込むかが大きな課題となっていること、また、彼ら自身も「日常生活の自立」「社会生活の自立」といったトータルな課題に挑戦する必要があること、そして、担当する国・自治体関係部門は、先進国、国内各地の民間団体等を含む様々な支援・施策の試みに学ぶとともに、日本国憲法が謳う社会保障思想・人権施策の視点ですすめられなければならないと思慮されたのである。
○多くの参加者からのフロアー発言がありましたが紙面の関係で割愛させて頂くことをお許し下さい。
(文責 谷口積喜 大阪市役所労働組合副委員長)