2014年10月10日
一般社団法人大阪自治体問題研究所理事会
刑法が禁じる賭博カジノ招致の動きが急を告げている。昨年12月に議員立法で提出されたIR法案(特定複合観光施設区域整備法案)通称カジノ解禁法案は、通常国会の6月会期末に審議入りが強行され、本臨時国会で継続審議されている。
日弁連や各単位弁護士会の声明など反対の意見・声明があいついで発表され、各地方では反対運動組織の結成や集会・宣伝行動が展開されている。安倍晋三首相がカジノを「成長戦略の目玉」と法案成立を狙い、橋下・維新の会が「国際エンターテイメント都市にする」と叫ぶ。国会ではカジノ推進派が圧倒的多数を占めるが、反対運動の盛り上がりと世論の動向が審議を遅らせている。
賭博を禁止した1950年最高裁判決は、『賭博行為は、…単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害するばかりか、甚だしきは暴行・脅迫・殺傷・強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらある…』とし、『公共の福祉に反するものといわなければならない…』とした。
我が国には、毎年約10万人の自己破産者とその約10倍の多重債務者、厚生労働省発表で推計536万人・人口比4.8%のギャンブル依存症患者がいる。海外での同様の調査ではほとんどが1%程度であり、日本は異常に突出している。その背景には、競馬・競輪など公営賭博に加え、パチンコ・パチスロなど生活に身近な賭博場の存在が挙げられる。この上、カジノ賭博を合法化すると、ギャンブル依存症患者をさらに拡大すると懸念されている。
推進派のみならず、一般市民の中にも「カジノの経済効果」を期待する声がある。では、カジノで誰が儲かり、誰が損をするのだろうか。推進派のIR構想の狙いは、事業者が儲かり、招致自治体の税収がある程度上向くことだ。儲かるのは事業者で、客は必ず「大損」をする。また、上向いた税収は、住民の福祉に使われるとは限らない。さらに、カジノは負ける金額がパチンコのそれとは2桁ほど大きく、逆に勝った場合はなかなかやめられない。
韓国では、自国民が利用できる唯一のカジノ「江原ランド」に、年間350万人もの韓国人客が訪れ、推定3%は病的カジノ中毒患者である。最多4000人ものホームレス、犯罪件数が1・5倍に増加、毎年80名程度の自殺者が出ているという。
カジノの誘致システムIR(IntegratedResort)は、ホテル、コンベンション施設などが揃った統合施設・大型ハコモノ開発事業である。大阪では、大型ハコモノ失敗の典型である大阪湾の人工島・夢洲に招致しようとしている。破綻した大阪湾ベイエリア開発に、新たに5600億円の事業資金をつぎ込もうとしている。
カジノは、人の金銭感覚を狂わせ、自制心が破壊される。IR法が通り、賭博が合法化されれば、「賭博」を職業として行うことも、憲法が保障する職業選択の自由の範疇であり、立派な「賭博師」となることを学校教育や社会教育の場で推奨されようとしている。
橋下徹大阪市長が言うように「子どもの頃から1人前の勝負師を育てる教育をすべき」が、社会規範として堂々とまかり通る。最高裁判決の言う、勤労を基本としていたこれまでの社会規範・倫理観は崩され、働かないで楽をして金を儲けることも正しい、賭博で負けた者、損をした者が陥る不幸は自己責任だという「人間性を破壊」した社会規範が新たに形成されかねない。
大阪自治体問題研究所は設立以来40年余、健全な地方自治の発展をめざし研究・啓発に努めてきた。カジノなど賭博図利による税収確保などの経済政策は、自治体職員や議員のモラルハザードが懸念されるばかりか、地方自治体に求められる「住民の健康と安全と福祉」確保に反するものであり、同法案には強く反対する。
以上