おおさかの住民と自治 11月号より
奈良女子大学教授
大阪自治体問題研究所理事長
中山 徹
1 ウソつき維新を許さない
下の図は大阪維新の会が5月の住民投票前に作成し、ホームページにのせたものです注。今回がラストチャンス、2度目はないと明確に言い切っています。これに限らず、橋下氏や維新の議員、幹部は口をそろえて、ラストチャンスと何度も言っていました。ところが驚いたことに、11月のダブル選挙で維新の候補者が勝てば、大阪都構想にもう一度挑戦すると言い出しました。橋下市長は、ラストチャンスというのは、唯一という意味で、最後という意味ではないとわけのわからないことを言っています。
自分の言ったことに全く責任をとらない、平気で前言を翻す、公約を簡単に捨て去るような政党では、選挙や住民投票がまったく意味を成しません。このような政治集団に大阪を任せておくのは大阪の恥です。思想信条の違いはいろいろとあるでしょう。でも、まともな政治を望むのであれば、このようなウソつき政党を許してはダメです。W選挙の最大の争点は、ウソつき政党=維新を許すのかどうかです。
2 大阪府、大阪市の私物化を阻止する
当初、維新は大阪会議は役に立たないと言っていました。ところが突然、大阪会議の設置に賛成しました。しかし、維新は大阪会議に参加するものの、無理難題を出張するだけで、まじめに議論する気配がまったくありません。
大阪都構想が住民投票で否決された直後、橋下市長は統合に関する案件は市議会に提出しないと言いました。ところが9月議会に、大阪府立大学と大阪市立大学の統合をはじめ、統合に関する案件が提案させるようです。しかし野党がこれらの案件に賛成するはずがなく、可決は不可能、議論する意味がまったくありません。
維新はこれらについてまじめに議論するつもりは全くありません。維新の意図は、最初から議論をつぶすところにあります。つまり、自民党や共産党は何も決められないと府民や市民に印象付けるために、府議会、市議会を利用しようとしているだけです。市立大学と府立大学の統合を望んでいる市民はごく少数であり、大阪都構想が住民投票で否決された以上、このような統合の案件は撤回すべきです。維新はW選挙を維新優位に進めるために府議会や市議会を利用しようとしているだけです。
維新が大阪府を握ってから大阪府財政は悪化し続けています。大阪の経済的地盤は沈下し続けています。府議会や市議会では議論すべきことが多数あるにもかかわらず、維新が党利党略で私物化しようとしています。このような策動を許している限り、大阪府、大阪市の衰退は止まりません。政策をめぐっては様々な意見があります。でも何が違うのか、どちらが妥当なのかを真剣に議論するのが府議会、市議会です。今回のW選挙では、維新から府民、市民の手に大阪府、大阪市を取り戻し、まともな行政、議会運営の保障を築くことができるかどうかが問われています。
3 安倍政権に大阪を利用させない
5月に住民投票が実施されたのは公明党が住民投票賛成に回ったからです。なぜ公明党が賛成に回ったかはわかりませんが、一般的に指摘されているのは、官邸からの働きかけです。大阪自民党が大阪都構想に反対しているにもかかわらず、官邸が住民投票実施に動いたのは、憲法改正に向けて、維新を利用しようとしたからだと言われています。憲法改正を進めるためには国会で2/3以上の議席が必要です。その数を確保するためには、維新を取り込まなければなりません。当時、府議会、市議会で維新は過半数を持たず、住民投票の実施は暗礁に乗り上げていました。住民投票ができなければ、維新は崩壊しかねません。そうなると官邸の計画も頓挫します。そこで維新の崩壊を防ぐために、公明党に働きかけ、住民投票賛成に回らせたと言われています。
5月の住民投票で大阪都構想は否決されました。維新は再び崩壊に直面しました。これに救いの手を差し伸べたのも官邸だと言われています。この春から夏にかけ自民党は安保法案の採決に動いていました。維新を採決に取り込むことができれば、与党のみの強行採決を避けることができます。維新と官邸の間でどのような議論が交わされたかはわかりませんが、二度も維新を窮地から救ったのは官邸だとされています。官邸が維新を救ったのは、大阪の将来を考えたからではなく、安倍政権の暴走に維新の支援が必要だったからです。そんなために、大阪府民、大阪市民の暮らしが潰されるのはまっぴらごめんです。このような政府の干渉を遮るためには、W選挙で大阪から維新を追い出さなければなりません。そのことが安倍政権の暴走を止めることにもつながります。
4 ダブル選挙の意義
5月の住民投票で大阪都構想を否決した最大の原動力は保守から革新まで、幅広い共闘が成立したことです。大阪都構想は、大阪市の税金を大阪府に移し、それを財源として、大阪府が、カジノ誘致や大型公共事業を進めることが目的でした。大阪市の税金を大阪府が取り上げるのは、普通では無理です。ところが、大阪市を解体し、特別区を設置すれば、そのようなことが合法的に行えます。これが大阪都構想の本質でした。
それによって歴史ある大阪市と24の行政区が消滅します。また、財源を取り上げられた大阪市では、医療・福祉に回す予算が減り、市民生活の困窮が進みます。このような事態は容易に予測できました。そこで、そのような維新の横暴に対して、地域を守ろう、暮らしを守ろう、中小企業を守ろう、歴史・文化を守ろう、そのような声が急速に広がり、様々な市民、団体が反維新で立ち上がりました。そして政党レベルから草の根レベルまで、様々な共闘が成立し、5月の住民投票では見事に大阪都構想を否決させました。
先に書いたように、維新はW選挙に候補者を立て、勝てば大阪都構想にもう一度チャレンジすると言っています。また、大阪都構想の実現を待たず、維新は医療・福祉の切り捨てを暴走的に進めてきました。安倍政権の暴走も止まらず、様々な弊害が大阪で発生しています。
W選挙は大阪府知事、大阪市長を選ぶ選挙です。住民投票の時に築かれた反維新の一点共闘を持続的な共同に発展させるときです。持続的な共同とは、反維新に基づいた自治体を作るということです。反維新勢力が知事、市長を獲得した場合、維新政治から決別し、府民、市民の視点に立った自治体建設が可能になります。大阪府、大阪市の権限・財源を活用すれば、市民の暮らしを支え、大阪経済を発展させることができます。安倍政権の暴走に対しても、自治体が大きな防波堤になり、大阪を利用して自らの野望を実現しようとしている政権に大きな打撃を与えることができます。
維新や安倍政権のような極端な暮らし、地域、憲法破壊に反対し、それらを守るような政策を展開する新たな自治体を建設すべきです。そのような自治体建設ができるかどうか、維新の復活を許し、再び大阪都構想の議論に明け暮れる大阪にしてしまうのか、この点が問われています。
5 新たな自治体建設の基本政策
反維新に基づいて自治体を作る場合、その基本的な政策は以下のようになるでしょう。
? 市民参加を徹底し、民主的な行政運営を進める
保守層から革新層までが集まる反維新勢力に基づいた自治体の場合、できるだけ時間をかけ民主的に進める必要があります。
? 医療、福祉、教育を重視し、行政の責任で市民の暮らしを守る
市民の生活を支えるのは行政の最も基本的な役割です。子どもの貧困を是正できるのは公教育です。全ての子どもが安心して学べる教育条件の整備を進めるべきです。医療、福祉、教育で働く人を増やし、雇用対策としても位置づけるべきです。
? 歴史、文化、自然を大切にし、再生可能エネルギーを重視する
農林漁業の活性化を進めつつ、自然環境、歴史的環境の保存、再生を着実に進めるべきです。また、再生可能エネルギーを重視し、化石エネルギーの依存率を減らすべきです。
? 庶民と中小企業を基盤とした経済成長を展望する
雇用の安定、賃上げに自治体として真剣に取り組むべきです。また中小企業が適切な利益を上げられるようにすべきです。
? 防災対策を進め、災害に強い大阪をつくる
各地で自然災害が発生しています。早急に地震、土砂災害、液状化、水害などの対策を進めるべきです。災害に弱い空間をこれ以上作らず、災害に強い大阪にする展望も持たなければなりません。
? 地域への分権を進め、コミュニティを重視する
本庁に集中している権限、財源、職員をできるだけ地域に分散させるべきです。また地域の意向を尊重しつつ、コミュニティの活性化にも積極的に取り組むべきです。
? 東京を目指すのではなく、大阪の独自性を発展させる
東京を目指すのでなく、大阪の独自性に磨きをかけるべきです。都市としての格を高め、国際化を図るべきです。
? 平和を守り、アジア・世界との友好を広げる
地域の維持、発展には平和が不可欠です。またアジアをはじめとした世界との友好を自治体として積極的に進めるべきです。
6 新たな自治体建設への展望
1970 年代には革新自治体が全国で誕生しました。今回は、保守勢力から革新勢力まで、政党では自民党から共産党までの共同に立脚した自治体建設を目指すべきです。住民投票の時に築かれた一点共闘を土台に発展させれば、それが可能です。このような新しい自治体建設を担う、新たな主体形成が広がっていること、この点に確信を持たなければなりません。
大都市でこのような自治体は未だできていません。格差と貧困が広がる中で、このような自治体が大阪にできると、大阪経済と市民に画期的な影響を及ぼします。また、大阪でこのような自治体ができると全国に与える影響も大きいでしょう。
W選挙の結果次第では、府民、市民が主人公になれる、そのようなチャンスが目前に迫っています。それを切り開くのは市民です。
(注) 大阪維新の会のHPより 本文を執筆した9月16日時点ではまだネット上に流れています。 http://oneosaka.jp/tokoso/