大阪市の総合区設置「概案」に関する声明

2016年8月31日
大阪自治体問題研究所 理事会

 (1)大阪府と大阪市が共同設置する副首都推進本部の会合で、7月22日、大阪市における総合区設置の「概案」が示されました。総合区とは、2014年の地方自治法改正により創設された制度で、政令指定都市における区長の権限を従来の行政区長よりも拡大することが可能になります。「概案」には、現在の24区を合区して設ける総合区の数と、区長権限を拡大する範囲の組み合わせによって、5通りの案が盛り込まれています。

 (2)大阪市では、かなり以前から、都市の規模が巨大化したことにより、住民1人ひとりの声が行政に届きにくくなっていること、地域の実情に応じたきめ細かな行政が困難になっていること等の諸問題が指摘されていました。これらは、橋下前市長の下で「大阪都」構想が提案された重要な契機でもあり、同構想に伴って導入される特別区では処理できる事務の範囲が広がり、特別区長も住民が直接選挙できること等が、「都」構想のメリットとして強調されました。しかし、昨年5月の住民投票で賛否を問われた「都」構想は、大阪市を廃止し、現在の24区をわずか5区に統合する、各区の区議会議員数を極端に減らす、住民の目の届きにくい一部事務組合に多様な事務を任せる等といった内容で、住民の声を行政に届けるという観点からも、地域の実情に応じた行政を実現するという観点からも、現在の事態を悪化させかねない構想として、住民投票で否決されたのも当然でした。

 (3)「都」構想は否決されましたが、大阪市が抱える諸問題は未解決のままです。他方、総合区の制度によって、住民に身近な行政の権限を広く各区に任せるとともに、各区の行政に住民の意向を反映させる可能性が開かれました。大阪市がその諸問題に対処するために、この制度を活用することも、一つの方向性として考えられるところです。

 しかし、今回の「概案」に示された5通りの案は、どれも評価に値しません。とりわけ、5区〜11区に合区するとの点が問題で、これは、きめ細かな行政サービス提供を実現することよりも、職員数の抑制に意を用いた結果にほかなりません。また、市民の意向を行政に反映させる方策については完全に視野の外です。現存する区政会議ですら、これを総合区の中でどう位置づけるのか、何ら触れられていないのです。会合で配付された資料の中では、「概案」とともに、住民投票で否決された「都」構想の特別区案が並べられていますが、取り上げるべきはむしろ地域自治区と地域協議会の制度でしょう。

 (4)さらに、「概案」の総合区制度は、特別区制度とともに「副首都にふさわしい新たな大都市制度」とされています。しかし、そもそも「副首都」が何を意味するのか、上述のような諸問題の解決に「副首都」化がどう役立つのか、「副首都」化のために総合区制や特別区制が不可欠なのか等、いずれも明確ではありません。松井知事や吉村大阪市長が「都」構想・特別区制導入の意向を繰り返し表明していることもあり、「概案」の総合区制は、「都」構想に代わる「副首都」構想の中で、特別区に至るまでの過渡的な制度として、あるいは特別区制の次善の策として提案されただけとも見られます。このように目的・効用の不明確な制度いじりではなく、住民自治の実質的な拡充につながる提案こそが望まれます。