大阪自治体問題研究所 山口 毅
1.該当箇所(8、14ページ)
第1章、第2章
○意見の概要
パリ協定に掲げられた1.5℃の努力目標の実現に貢献するために、長期戦略を策定したとしながら、「エネルギー政策の基本的視点である3E+Sを踏まえたエネルギー基本計画に基づき施策を進めていくことが重要である。そして、最終到達点として脱炭素社会の実現を目指していくことが重要である」と矛盾した記述は修正すべきである。
○意見及び理由
1.5℃を達成するためには2050年前後に正味排出量をゼロにする必要があるとIPCC1.5℃特別報告書は指摘している。したがって、従来の延長線上の目標ではなく、1.5℃目標を実現するために、2050年に正味排出量をゼロにすることである。
2.該当箇所(15?16ページ)
第2章:各部門の長期的なビジョンとそれに向けた対策・施策の方向性
再生可能エネルギー
○意見の概要
飛躍的に再生可能エネルギーの普及を図るための施策を推進する具体的な計画を長期戦略を作成すべきである。2030年の22?24%目標をさらに引き上げ、40?50%の普及目標とする。
○意見及び理由
重要なポイントは、再生可能エネルギーが分散型エネルギーとして地域で活用され、地域住民の手で運用される仕組みを整備すること、地域の参画のない大規模な再生可能エネルギー源の開発をやめ、地域住民が参画する取組を支援・推進すること、地域住民が取り組むことのできる環境(系統連系線増強、広域送配電ネットワーク強化)を整備することである。
そのために、計画的な数値目標などをアクションプランとして作成する。
3.該当箇所(10ページ、16?18ページ)
第1章、第2章
○意見の概要
火力発電の依存度を下げ続けることを長期戦略に盛込むべきである。とりわけ、石炭火力発電は、2030年までに全廃すべきである。また、石炭火力発電の輸出する政策は撤回すべきである。
○意見及び理由
1.5℃目標を達成するには、火力発電の割合を急速に減らしていく取組が各国に求められる。日本は第5次エネルギー基本計画を維持し、化石燃料発電への依存から脱却できていない。
とりわけ、石炭火力発電は新規建設をやめ、早い時期に既存炉を廃止することが必要である。
長期戦略にある「CCS・CCU/カーボンリサイクル」の取組で対応するのではなく、CO2の排出量そのものを減らす対策に集中すべきである。
長期戦略は、石炭火力発電へのCCS導入を2030年までに商用化することを前提に、実用化されたCCS・CCUの輸出を想定している。これは、石炭火力発電の新増設を認めることが前提である。技術革新に過大な期待をせず、むしろ技術革新があれば、さらに削減できるくらいの計画にすべきである。
4.該当箇所(19ページ)
第2章
○意見の概要
原子力発電の再稼働を進めるとあるが、原子力発電はトイレのないマンションに例えられるように最終処分など未解決の問題が多く、福島の経験でも一旦発生した事故は時間的、空間的、心理的に深刻なダメージを国民生活に与える。原子力発電に依存しないエネルギー社会を創るべきである。
○意見及び理由
現在の原子力政策は再稼働ありきで、“後始末”に責任を負わない無責任な施策である。未だに解決しない福島第1原発の現実を見れば、原発の再稼働を進めた無責任体質を改めるべきである。
現在の技術では、原発の使用済燃料対策、核燃料サイクル、最終処分、廃炉等を進めることができない。にもかかわらず、再稼働を強行し、40年運転をさらに延長する仕組みまで整備した施策は撤回すべきである。
5.該当箇所(22ページ)
第2章
○意見の概要
産業界における温室効果ガス削減の取組を自主的な取組にするのではなく、それぞれの企業がどう取り組むかをぐたいかすべきである。
○意見及び理由
産業界における温室効果ガスの削減の取組みは、自主的な取組のまま放置されている。電気事業界においては、「電気事業低炭素社会協議会」が決めた排出係数0.37kg-CO2/kWh程度(2030年度)を業界全体で達成することを目指している。しかし、協議会に参加する個々の企業は、この目標を達成するためにどう取り組むのか、個々の企業の目標はどう設定するのかについて、明らかにしていない。
産業界の自主的な取組に任せるのではなく、目標達成に拘束力のあるしくみを整えるべきである。