大阪府・市両議会での「大阪市廃止・分割」構想協定書の承認と
「住民投票」実施予算の議決に抗議する
2020年9月7日
一般社団法人大阪自治体問題研究所 理事会
さる8月28日に大阪府議会、そして9月3日には大阪市議会において、大阪市を廃止し4つの特別区に再編するいわゆる「都構想」の設置協定書の承認と、「住民投票」の実施予算が議決された。この結果、大都市地域における特別区の設置に関する法律の規定に基づき、大阪市の解体と4つの特別区に再編することの可否を問う「住民投票」が60日以内に再び実施されることとなる。
その内容は、2015年に大阪市民が住民投票で否決したものの焼き直しの上に、より一層の偽装を凝らしたものであり、大阪維新の会をはじめとする大阪市解体推進勢力の思惑のごり押しに前回を上回る10億円もの市民の血税を投ずることは壮大な無駄遣いであり、いったん下された市民の意思を無視した上に、重ねて市民を欺くものとして断じて容認できない。
この間、大阪自治体問題研究所として、政令指定都市である大阪市を廃止し4つの特別区に再編することは、地方行財政制度の仕組みからして、自治体が「自分のことを自分が決める」ための財政も権限も手放すことであり、地方分権の流れに背き、住民の利益にはつながらないことを道理を持って批判し、その中止を求めてきた。
また、推進勢力が法定協議会を通じて数の力で強行に強行を重ねた「協定書」の内容に関しても、維新政治による「二重行政解消」「身を切る改革」の名による公共機関の統廃合、住民サービスに従事する自治体職員の大幅削減、行政サービスの民間委託推進、カジノ・IRに依存する経済政策や、実施後の財政見通しについて、現下のコロナ禍の実態を踏まえておらず、非現実的かつ住民を欺くものであることを、繰り返し指摘してきた。
大きな問題は、こうした批判や指摘を無視した上、市民が率直に感じている「いっぺん市民が否決したのに、なんでまた?」や「今はコロナ禍対策にお金も労力も投じなあかん時やのに?」の声にさえ、推進勢力はまともに応えようとしていないことにある。
5年前の住民投票に向けては、大阪市は39回、約3万2千人参加の「住民説明会」を行った。それですら、前回の住民投票当日の出口調査での有権者の回答は、「大阪都構想がわからない」が多数を占めた。にもかかわらず今回はコロナ禍を口実に、説明会はわずか8回、オンライン説明会3回の予算しか計上しておらず、大阪市を廃止するという重大な協定書の内容への理解を求める姿勢は感じられない。
また、コロナ禍で変容しつつある国際カジノ資本の動向や、IR・カジノ事業者の選定基準を定める政府の「基本方針」の決定も、安倍首相辞任という事態のもとでメドすら立っていない。
こうした状況を見れば、府に財政と権限を集中し、夢洲に巨額の費用を投じてIR・カジノを誘致しインバウンドによる経済効果を期待する計画そのものも見直さなければならない。
また、コロナ禍を踏まえた今後の財政シミュレーションに至っては、「どのぐらいの財政への影響が出るかは試算困難」と言いながら、「減収があれば国が補てんするだろう」「大阪メトロの赤字は一時的、回復が見込めるだろうからメトロからの増収を見込む」など、根拠も不明なまま「大丈夫」と言い切るなど、市民を欺くものと言わざるを得ない。
今回行われようとしている住民投票は、歴史に名を刻む都市として発展してきた大阪市の廃止・特別区への再編という後戻りのできない重大な選択の可否を市民に迫るものである。従って、市民に対する十分な情報提供と、議論と熟慮の物理的・時間的な保障が行われることが大前提となる。
大都市地域における特別区の設置に関する法律第7条2項にも、住民投票に際し「協定書の内容についてわかりやすい説明」を求めている。ましてや今は、コロナ禍のもとでの日々の暮らしや健康・生命の保障、営業や経営の立て直しや公的支援、「新たな生活様式」を支える行政施策・体制などの構築が最優先課題である。
この時期に、まともな情報提供もなく、議論と熟慮の保障も行われないまま、住民投票を拙速に行うべき理由など市民の側には存在しない。
大阪自治体問題研究所は、このような異常な状況の下で、「大阪市廃止・特別区への再編構想」の住民投票を実施することに断固として反対する。
そして、住民自身が自らが住み働く自治体の姿やその施策のあり方について、学習や議論をおおいに広げ、地方自治と住民の暮らしを守る共同が広がるよう、全力を尽くすものである。